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「蓮池の言ってた『やること』とか、峰の言ってたことも……」  退寮の手続きや片付けのことだと思っていたけど、じつはその逆で。蓮池の言葉は、一度も実家に帰っていない俺の準備不足への忠告と急かしだった。  『夏休み明けてからでも大丈夫だよー』なんていう峰のからかいは、とりあえず必要なものだけあれば平気だよ、って意味合いだったということだ。  彼らは『正式入寮するから』と、前提を揃えて俺に言っていたのに。知らなかったとはいえ、こんなに上手くすれ違うものなのか?  おかしいと思えば、いくらでも気づけたはずなのに。 「……思い込みってこわいな」  気づけなかったのは、“守屋といられるタイムリミット”に目隠しされていたのが理由なんだとしても。『恋は盲目』って言うからなーとは、笑いたくても笑えない……  ――でも、笑えない理由は他にもある。 「おまえ……ゼッタイたのしんでただろ」  1週間前といえば。なんとなく守屋が部屋以外でもやさしくなりはじめた頃だ。もう慣れきった嫌な予感しかしない。 「否定はしませんよ。すげぇ充実してました俺は」  にらみ上げたのに守屋はニンマリした笑みを浮かべるから、やっぱりかと呆れを思う反面……すこし泣きたくなる。  俺は、守屋もさみしいからだって、うれしかったのに。言わないけどおなじ気持ちなんだと思っていたのに……わざとだな。わざとだろう。わざとなのか……  いちはやく先生の陰謀に気づいたんだな……さすが意地悪な人種だ。なのに、すんなり騙されちゃって……なにやってんだ俺。 「だって真尋さん、ガッツいてましたからね」 「はっ!? なっ、そ、それはおまえだろっ」  いきなりそんな話題にとぶから、思わず起き上がる。からかうわけじゃなくて、うれしそうに言うから、なんだか恥ずかしくなって顔が熱くなる。 「いやそれあなたのせいですから。求められたら煽られるでしょ。つか、2回以上しなきゃホールドしてはなさなかったの誰ですか」 「うっ……俺です」 「気がつくと、涙目で俺のことじーっと見てたの誰ですか」 「……それも俺です」 「すげぇたのしかったです」 「おまえやっぱり性格悪い……」

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