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「邪魔じゃなくて“おじゃまします”だろ、てか峰がジャマだからどけ」
「は、蓮池……よかった」
「辻元、これ書いて出せって言いに来た……なんで涙目なんだよ」
その後ろから蓮池の顔がのぞいて、俺は妙に安心してしまった。だってなんかいたたまれない雰囲気だったし……
蓮池って俺にとってホントに仏だな。やさしくないけど。
「今日になっても俺に手続き書類返してこないな、と思ってたんだけど……なんでおまえの師匠が全部持ってんだ? あの人よくわからん」
先生のことだから徹底しているだろうとは思うけど、“なんで”は教えられそうにないから、曖昧に笑っておいた。
ひらひらと書類を蓮池が振るからもらいに行こうと立ち上がったのに、なぜか守屋に軽く制されて、そのまま守屋が受け取りに行った。
そしてまたなぜか峰が微笑むんだけど……なんで俺に笑うんだこいつ。
「あと、荷物は送るのかどうするのか、明日確認しに帰ってこいだってさ。既読つかねぇって怒ってたぞ千尋ちゃん」
「え、うわっごめん……全然見てなかった」
昼から一度も確認しなかったスマホを慌ててスワイプする。送られていたフキダシは、スタンプ連投と多用を数十回経てから、最終的に敬語で『とにかく明日お待ちしております』とつづいて『守屋さんも連れてこないと磔刑に処す』と宣告しておわっていた。
「ああ……明日は練習ないですから、いいですよ」
目線が合っただけで守屋はその恐ろしい内容を全部わかってくれるから、ホントにこいつすげぇな……それとも追い詰められた俺の目力のせいなのか。
「その書類、明日の朝には必要だから……書けよ、いますぐ」
じゃあそれだけだから、と蓮池は峰を連れて出ていった。
タイミングが良いんだか悪いんだか……と、息をつこうとしているあいだに、またすぐ扉がひらくからビクッとする。
「辻元ー、また泣きながら俺の部屋来てね?」
顔だけ出した峰は俺と目が合うと色っぽく、でも面白そうに笑った。
いや期待されても困るしもうそんな恥さらしたくないしその笑顔苦手だし……と、どれも言葉にできないでいたら、
「お断りします」
ドア前にいた守屋が、いちばん言えない俺の心の声をそのまま代弁した。
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