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 その一言に、峰は俺に向けていた笑みを守屋に移した。移された守屋のほうも、さっきみたいに微笑んだ。  部屋の空気に殺伐とした何かが滲んだ。ような気が、しないでもない。 「守屋に言ってないけど?」 「知ってますけど?」 「ホントおまえって俺に懐かないしかわいくなーい」 「峰さんもかわいくないですよ」 「わかってるじゃーん」  ここまでお互い笑顔だけど言葉を交わすごとに部屋の温度が1度下がる。触れたら切れそうなほど、そのやりとりが醸す空気は乾いているし尖っている。もうそろそろ黒くて禍々しいものも見えてきそうな。 「峰……守屋が笑顔だからもうやめろ、クドい」  割って入るに入れない成り行きを見守っていると蓮池の声がして、峰が引っ込んだ。こういうときの蓮池に逆らえないのは、みんなおなじらしい。  中途半端にひらいたドアを静かに閉めた守屋は、しっかりと鍵をかけた。その背中にはまだ殺伐感が漂っているように見える。  ふたりが話しているのをはじめて見たけど、いつもこうなんだろうか。これっていわゆるアレだよな、同族なんちゃら…… 「守屋って峰のこと……もしかして嫌い?」 「……え?」  興味本位と今後のためにきいてみると、守屋は考えるように視線を遠くへ投げたまま微動だにしなくなった。もう二度ときくのはやめよう。 「まあ、それはいいとして。真尋さんはやることやってください……蓮池さん事務的なことに厳しいんで」  短くためいきみたいなものを吐いて、守屋は書類をひらりと渡してくる。ベッドにくっつけて置かれている机からボールペンまで取ってくれた。 「たしかに……あいつ朝イチで取りに来るな」  真面目な蓮池のことだから、きっと「おはよう」と言う前に「出せ」と言ってくるにちがいない。  保護者の捺印や署名が必要なところは埋まっているけど、俺が書くべきところは結構ある。言われた通りさっさと済ませてしまおう……と、思うのに。無駄な動作ひとつなくベッドに押し倒されて、書類とペンを握ったまま俺はまばたきしながら守屋を仰ぎ見た。

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