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ユメノマニマニ
ユメノマニマニ
いやにはっきり目が覚めて、枕元のスマホを見やれば午前6時。しかも水曜――朝練のない唯一の平日。
二度寝ができる時間ではある。でも、こうも目が冴えているのにもったいない気もする。たまにあることだから……まあ、いいかと。
反対側で丸まる寝顔に、ニヤリとする。
カーテンの隙間から差し込む朝陽はまだ控えめだ。薄くぼんやりと視界に映る、モコっとした布団の山をゆっくりどかして。小さな寝息が途切れないのを確かめてから、そっと瞼にくちびるをあてた。
「ん……」
少し上がり気味の眦が眉と一緒に動くが起きる様子はないし、なにより無防備なので。これはもう、やるしかない。
笑いたくなるのはとめられないがひとまず、頬にそえたてのひらで寝顔を上向きにさせてから、重ねる程度にくちびるを触れあわせる。これは自分なりの免罪符だ。
「……んぅ」
かすかに首を振ると、枕や額にかかる髪がさらさら流れた。細くてやわらかいこの髪……こういうのを猫っ毛、ていうんだろう。雨の日に、うねる襟足を気にしていた不機嫌な顔を思い出す。俺は好きですよと言ったら、俺も好きだよ守屋っぽくて、と頭をなでられた。素直さに困らされるのには、そろそろ慣れたいところだ。
「んん……」
するりと、Tシャツの裾から手を滑り込ませて胸まではだけさせた。冷やついた空気のせいか、またかすかに身動ぐ。起きそうで起きない姿に、いじりたい気持ちが加速する。
ぬくぬくとあたためられていたその肌をなでる。てのひらで、皮膚の下に流れる温度を探るように。
「ふぁ……ん……」
えぐれた腹から肋をたどって、行き着いた平たい胸。寒さに立ち上がる膨らみを指先でかすめると、
「んっ……」
軽く握られている手がぴくっと跳ねる。衣擦れの音といっしょに、腰がよじれる。
――寝てるのに、感度良すぎじゃねぇか?
いろいろ、この人の先行きが不安になるがとりあえず、いまは頭の隅に追いやる。もう片方にも指をかけて、潰してみたり甘めにつまんでみたりと。
「ん、ん……」
申し訳程度に左右に胸を逃がす仕草に、笑みを押し殺しながらふたつの突起をいじくれば、
「ん……っ、ぅん……」
朝勃ちに、ちがう快感も手伝ってか、くねる腰の揺れにシーツの擦れる音が増えるし、大きくなる。
いよいよかわいすぎるから、舐められるのに弱い右側を口に含む。舌先で転がす合間に、左は親指の腹で下から弾く。これにも弱いは十分知っている。
「んん……んっ……んぅ」
鼻にかかる明らかに甘い、まあ……あまり聞かない声がする。俺の背筋と腰回りに、じわじわとじれったい熱がたまってくる。
見たことない感じ方に、調子に乗っていじり倒していると、うっすらと瞼がひらいた。それでも閉じそうな、とろんとした瞳だけど。
「んぁ……ぇ、守屋……? あれ、まだ……ゆめ?」
虚ろに見つめてくる、まだ夢の中の顔に、俺はなるべく──それこそ夢のようにやさしく、笑ってやった。
「真尋さん……これ、まだ夢の中ですよ」
目の前の守屋は、すごくやさしく笑う。
なにかに追われていたはず……なんだけど。どこからか急にのびてきた手が俺を押し倒してきて、気づいたらベッドで、なんかふわふわ気持ちよくさわられてるな、と。だれなのか確かめようとしたら――守屋だった。
「ん……夢、なの……?」
「そう、夢。だから真尋さんの思い通りにできますよ……俺のこと」
そうなのか……そっか、夢だもんな。俺に都合のいい守屋なのはあたりまえなのか。それなら――
「意地悪しない……?」
「……真尋さんが望むなら」
こんなにふわっと笑う守屋はじめてだ……やっぱり夢なんだな。そう思っていたら、あったかい舌が耳の中に入ってきた。外側の形を舐められて吸われる。くちゅ、とか、ちゅっとか音がするせいで、首筋から肩までをくすぐったさが走っていく。
「ん、ぁ……」
「耳ヤダ、って言わないの?」
「ん、ん……言わない……ぞくぞくするの、すき……」
そっか、なんて耳許で笑う守屋は耳朶をはむって甘噛みする。くちびるではさんで遊ばれて、また耳の中を舐められて。胸もいっしょに指でいじられるから、さわられるたびに背中が甘くなる。
「……あっ、きもち、いい……それっ……あ、ん……っ」
ひっかかれて、やわらかく捻られて。腰も疼くし尻も浮くし、でもふわふわ気持ちいい……
「……吸われるのも好きでしょ?」
耳許からおりてきたくちびるが、音をさせて吸いあげる。左はまだ、つままれてる。
「ん……すき、んんっ……吸って、もっと……」
包んできた口の中は、熱くてぬめってしてるから、思わず守屋の頭を抱える。ふふって小さく笑われるその吐息も、見上げてくるやさしい目も……ダメだ、きもちいい。
「……こっちもする?」
布越しに、熱くかたくなってるところをつかまれた。先からぬるぬる出ちゃって濡れてるそこを、指先がくるくるなでるからスウェットのシミはさらに広がる。
「ん、っ……する……っでも……」
舐めてた先から舌を離す守屋を捕まえる。首に腕を回して、引き寄せた。はやく塞いでほしくて、ためいきの間隔は短くなる。
「ああ……ごめんね、気づかなくて」
「ん……っ」
重なって、熱がふんわり馴染む……そのあいだに。やわらかい舌でなでられて、絡められて、見つめる瞳でまた笑われる。
ぼやける世界と包んでくる守屋の体温と感触は、いつもよりやさしくて。こくん、と飲みほす喉もとろけちゃいそう。ほんと、夢ってすごい。ずっとふわふわして気持ちいい。なんかもうそれしか考えられなくなってきた……
「すごいね……自分でもするの?」
さわられる前からあふれてた液で擦られるのにあわせて、
「あ、ん……だってさわりたく、なっちゃう……」
自分でも胸をいじる。守屋の手にも重ねていっしょに扱く。すごいこれヤバい。ぞわぞわするの、とまらない……
「ほんとエロいですね、真尋さん……でもかわいい。俺、スゲーすきですよ……そういう素直なとこ」
こんなこと、夢の中じゃなきゃできないんだけど……恥ずかしすぎて。いまもちょっと恥ずかしいけど、でも守屋は意地悪に返してこないから。その甘ったるく囁かれる言葉に――
「ん……あ……すき、だよ……誓っ……」
いつかみたいに、胸の内側から気持ちがあふれてくるから。
「だから……俺のこと、きらいに……ならないで、ね?」
トロトロにとろけそうな、この浮遊感に──
「もう……誓じゃなきゃ……ダメ、だから……」
夢の中なら言ってもいいかな……と、甘えた言葉を返した──のに。
「んわぁあぁッあっ! んぇあっ、えっ! えっ!?」
まだ慣らしてないどころか触れられてもいなかった粘膜に多大で甚大な衝撃が走る。
「……っごめんなさい、我慢できませんでした……かわいすぎて」
見開いた目に映る守屋は申し訳なさそうに笑うけど、そんな見たことない顔されたって!
一突きで奥まで届いた激震はビクビク、ぷるぷるとまらない……!
「なぁあっぁっ!? ひ、なんでっ夢、じゃないだろッ、これっ!」
「……ごめんなさい」
言葉通り『目も覚めるような』激痛と圧迫感に泣きながら、
「ひぃっ! ぁあぁあやまるなら、う、ごか、なっ……いたぁッ! あっ」
「……ごめんなさい」
「さ、いてぇッ……も、朝からなにしてっ……最低だ、おまえっ!」
よくわからないニヤつきで強連打をやめない守屋に“倍返しリベンジ”を、かたく心に誓った。
この怨み……ゆめゆめ──努々忘れるなよ、と……!
□■□■□
これは、なんつーか……――
と、眼下の光景に、複雑に笑った。
『据え膳』なのか『ボタ餅』なのかと、俺のを懸命に舐めたり含んだりしてる状況をながめながら、単純にひらめく“たとえ”があった。まあ、齧歯類は齧歯類でも――ハムスターっぽい、けどな。
「ん、ん……」
差し込む朝陽で薄まる暗がりの中。俺の腰元で粘っこい音を立てながら。
「んぶ……んく、んっ……」
やたらとたのしそうに目を細めて、添えて握り込む手でもやわらかいくちびるでも、上下に扱きながら。
「ん、んっ……っはぁ」
真尋さんは盛大に『サービス』をしてくれている――俺に見られているとも知らずに。
仕返しのつもり、なんだろうな。でも、足元から入ってきた時点でバレてるし。眠りの浅いほうだから、そういうのはすぐわかる。そうでなくても、布団をかぶったままならまだマシなのに動きづらいからなのかどかしてるし……まあ、俺からはよく見えるからいいとは思う。
「ん……ん、んぷっ……んはぁ」
つか、声出しちゃダメだろ。でも恥ずかしさがない分いつもより力加減も舌の使い方も上手い。とはいっても、イケるほどじゃねぇんだけど。本人としてはイカせるつもり、なんだろうけど。
――まあ、だからそろそろ。
「おはようございます、真尋さん」
がっぽり奥までくわえ込んだ状態からの上目づかいと、俺の見下ろす視線がやっと合わさったので、あいさつする。
「今日は水曜日ですけど、記録会が近いので朝練あるんです」
「むうっ!?」
口にくわえ込んだまま、動揺して暴れる真尋さんは、なにか言い訳っぽいことを言おうとモゴモゴしている。むぅむぅ言ってるその声と姿は、そういう新種の小動物のようで意地悪く浮かべる笑みにちがう感情も混じる。
たぶん最初から見られていたことに――やっと――気づいたんだろう。絶望と恥ずかしさに、涙が膨らんでいく。その、よく見慣れた涙目の顔をあげさせて。
「なので、あと15分で俺のことイカせてくださいね?」
「うっ、おあっ……絶対ムリ!」
「真尋さんが上ですから」
「やっ、えっ……もっとムリ!!」
腕の中に閉じ込めた状況に舌舐めずりは隠して。ひとくち、キスをした。
_Ex.3 eat me, bite me.
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