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甘くて優しい低音なのに、有無を言わせる気がないその声で、何かしらのスイッチが入ったんだってのはわかっていたけど。
「擦るたびに、ビクビク反って腹についちゃってる……すげー元気」
「んっくぅっ――そ、んなっ、えぐ……らない、でっ」
いつもより楽しげな指は、絡みつくのに必死な腹のなかを容赦なく、ちょっと乱暴に押し上げるし揉み潰すし。
「なんで?……ここに響くから?」
「ひ、ぁン……だ、めっ……もぉ、そこ、とける、ぅうっ」
空気が触れるのさえ、気持ちよくなっちゃってる胸も唾液たっぷりで舐めて含まれるし。
「……もうとけてるでしょ? 上も、下も……なかも」
「んはぁっ、あ……やだっ……吸わな、ぃでっ」
痛みなのか疼きなのかもうわかんない快感をじんじん訴えてあふれてる先を……気紛れに唇で遊ばれるし。
「真尋さんって薄くだけど筋肉ついてるし、ちゃんと男なのにね……なんでこんなかわいらしいカラダしてんですか?」
「っかわいく、なんか……っ」
なんて――意地悪く耳許で笑うくせに。
「かわいいですよ? 俺、もう真尋さん以外抱きたくないです」
「ぅうっ……エロいッ、し、ズル過ぎる……っ」
しっかりガッチリ、胸の真ん中を撃ち抜いてくるから。見えない、真っ暗な世界の向こうから好き勝手されてるはずなのに。もっと俺のこと好きにして!……とか、言いそうになる。若干言いかけた……なんか、俺のスイッチも入りそう、な予感。
「あ……っ」
ふわっと。口許に、淡い息がかかった。まだ一度もしてもらってない重なりを期待しちゃって声が漏れる。
――キスしてほしい。
柔らかくかすかに空気を介してくる温度に、首筋が攣りそうなくらい唇を寄せる。
「ふ……ぅくっ」
でもあたったのは、硬い皮膚で。意地悪な指先がすぐに割り入ってきて捏ね回される。丁寧に絡めて、撫でてくれて気持ちいいけど……これじゃない。
「残念、唇はこっち」
「あ、んっ……なんで、ヒドい……っ」
欲しかった唇は、胸元に濡れた熱を生む。そろそろ本当に……縋りついちゃいそう。縛られてるから無理なんだけど。
抱きつくこともできないし、どんな顔してるのかもわかんない。触れてきてもらうことでしか、俺は今、守屋を確かめられないのに。
「……痕になりますよ」
ぎゅっと噛んでいた唇を割るように、また指が差し込まれた。誰のせいでっ、と見えない先の顔を睨むけど。
「そんなにキスしてほしかった?」
なぞる指先と囁く声は優しいし、
「して、ほしい……キスは、いつでも……して、ほしいっ」
間近のこのあたたかさは――きっと、欲しかったものだと思うから。
「じゃあ、舌……出して?」
「ん、ぇ……」
悔しい気持ちより切ない欲求が勝って、素直に差し出してしまうのはもう仕方ない。
「ん、ンぅっ……ふぁ、は……ん、んっ」
舌の根が、突っ張って痛いくらい吸われて。甘噛みされて。飲み下せない唾液も息継ぎに紛れるちっちゃい喘ぎも全部、口の中で混ぜるように絡めて、撫で回されて。
「先走りすごい出てる……止まんないね」
「ん、くっ……っ言わない、で……っ」
「こっちも自分から開いてるよ?……でも俺が喋るとすげー締まる」
「ひ、んっ……だ、って……や、あっ……ゆっくり、抜くっ、な……」
まるで実況な言葉の数々を耳許にねっとり囁かれて、指で弄られて。否定したいけど、そんなの嘘だって、見えてる守屋にはバレバレだし。隠そうとしたって、突っぱねようとしたって……膝の間に割り込まれちゃってるし、腕は背中の下だし縛られてるし。もうただ、ひたすら……守屋に従うしかなくて――
「ヤラシい音してる……ねぇ真尋さん、ここ……なんて言ってると思う?」
シーツに滴るほど濡れて、今もひくついちゃってるだろうそこを焦らすように撫でられながら、
「俺にどうしてほしいって言ってる?……教えて?」
擦り寄る頬と、こぼされる甘い誘導に。
「っん……ほしい、って……」
理性と俺のスイッチの脆さを、
「せ、誓の……くださいって……ふ、深いのしてって」
改めて、知る――
「俺のす、きなとこ、もっ弱いとこも……擦って、き、きもちよくしてくださいって言って……ます」
自然に出た敬語が、謎ではあるんだけど。おそらく見下ろしてるんだろう守屋から満足そうに笑う気配が漏れきて。
「それだけ?」
でも、楽しげに焦らされて。もうあと1回でも意地悪されたら目隠しに涙のシミが出来そうで。
「う、ぁ……な、なかっで……」
涙声ながらも頑張って言葉を押し出してる――途中なのに。
「あ、ぁあ、あっ……ひ、んっ、……ッ」
「はっ……やっぱ狭いね、真尋さんのなか……」
ずぷずぷ……入ってこられて、突き上げられて。
「んぁあっ――ひっ、はぅッ、もっ……そ、なっ……強いのっぉ、だめ……ッ」
間髪入れずに最奥の……もっと奥までいきそうなくらい、抉るような連打。出かかる言葉も、呼吸もその質量に持っていかれる。
一気に入れないでって、いつも言ってるのに……なんで、こいつは! 擦られるのと突かれるのが同時なの、すごいツラいのに……ああもう! この余裕のなさにゾクゾク、きゅうきゅうしちゃう身体がホントに――やだ!
「……ダメなの口だけでしょ?」
「ち、がっ……ぇ、あ!? 待っ、て……ま、って……!」
右足を掴まれたから、嫌な予感したけど……これ横に、してるだろ! なか、捻られるの……うっかり気持ちいい、けど。
「あ、んぁ、あっ……こ、れっやだっ……く、ひっ、ぅうっ」
……これダメなのに。この角度は……だって――
「んぁっ、あっあっ、あし、はな、してっ……ひ、っン! あげないでっ、ンッ」
「どうして?……深いの、欲しいんでしょ?」
「あンっ、あ、おっ、おく、までっ、はいっちゃっ……あ、やだぁ、んッ!」
容赦なく突いてくるから、逃げたくて。狙われてるところを少しでも避けたくて腹が反っちゃう、から。だから守屋のが、真っ直ぐあたっちゃって。弱いとこゴリゴリ、抉られ過ぎて目の前弾ける……っ!
迫り上がってくる快感が、なかで響いて広がって。そのまま意識まで飛びそうなのに。不意の柔らかい微熱は胸まで弄り倒そうとしてくる。
「ぅンッ、は……ぁっやめ、っ……そこ、ぁ吸っちゃ、ンっんん」
「……噛むのも好きでしたよね?」
「ひっ、はぁう……噛ま、ないでっ……ぁんっ、やだ、ぁンッ」
「っ……なか、すごい必死になってきた……こっちもしましょうか?」
一撫でしてくれたら、もうそれで十分なくらい募ったそこを扱き立てられて、
「うぁっ!?……や、やっこす、ったらぁ、ひっ……ぃんンっ、いっ、くッ」
腰から爪先まで、なかから脳天まで突き抜けてくる……強烈な刺激に溜まりに溜まった、その熱を吐き出す――
「うっ、ぅく、ッ……なんっ……で」
のを、無慈悲な指先にぎゅうぅっと塞き止められる。
「……『イカせて』って、言われてないですから」
見えなくたって、その声だけで――こわいくらい綺麗で色っぽく――意地悪な笑みだろうなんてことは、悲しいくらいわかる……
恥じも理性も、抵抗も。きっともう邪魔だから。
「お、ねが……い、イカせ――っん、む、ンンッ」
かなぐり捨てて、素直に言おうとするのに……なんで口唇塞いでくるんだよ、ホントにこいつはっ!
「んぇ、あっ……せ、いっ……おねがっ――」
やっと離れた唇から、唾液の糸も舌もまだ剥がれないうちに、息するより先にせがもうとしても、
「あっ、うぁあ!……んッ、あ……ま、って!」
また体勢を変えられる。しかも後ろから……で。当然、手枷は外してなんてくれないから。腰だけ上げられた……尻を突き出す格好で。
「ココでしょ? 真尋さんの、好きなとこ……」
「ぁん、あン!……そ、こぉっすき、ひァ、じゃなぃ、いッ!」
「好きだからエロい声出てるんですよね?」
「ンぁ、あんっ……す、き……くなっ、んぁっはぁン……え、ろくな……っ」
吹き込まれる意地悪と、ねっちり突いて抜かれる腰振りにぞくぞく止まらないし、だからなかは余計に締め付けるし。喘ぎばっかりで、言葉がアレだし。
されることもしちゃうことも、全部が腹の奥から背筋を這い上がって、甘く蕩かしていく。そろそろ、本当に……もう本当に色々ヤバい、気がする。
手枷に繋がる手首まで押さえて、引き寄せて、泡立って糸引いて垂れちゃってるだろうそこに手加減なしの深い出し入れを打ち込みながら。
「アンアン言ってるのかわいいですけど……」
荒い息の合間で器用に笑う守屋は、
「もう一度聞いてあげますね……真尋さん、どうしてほしいの?」
「んあっ、あ……っむり、い、えなっ……あン、やぁっ、あっ」
「それだけ喘げたら……言えるでしょ?」
なんて、征服欲あふれる掠れた声で追い立てる、くせに。
「んっ、はぁっ、イカせ――っはぁふ、んっぶ、ぇ」
言い切りそうなところで、強引な指を口の中へと潜り込ませてくる。言わせる気、なんてあるはずない。
「……俺、最近見つけたんですけど、ここ……こうやって押すと」
「え、ぅっンぇ」
ぐるっと口の中を撫で回してから、舌の真ん中を押さえた指で、そのまま奥に突っ込まれて。えずくから喉が締まって涙が出るし、指は1本じゃないし……タラタラよだれも垂れてるのが、唇の感覚でわかる。
「なかがね……めっちゃ締まるしウネるんです……搾り取られそう」
きっと気持ちよさそうに、睫毛をふせてるんだろうなとか。耳許にかかる吐息とか、肩に落ちてくる唇にも――なにより、身体が覚えてる記憶から思い出しちゃうから。
「ふ、ぅく……あ、んっ、ンん……っ」
誘発される欲求にも、守屋の熱にも弱すぎる俺のなかは、トロトロ蕩けちゃってるくせに、もっともっと、て……絡み付いちゃって。
「真尋さん、口の中も性感帯なんですね……それともちょっと苦しいほうが好きなの?」
苦笑混じりに勘違いされるほど、でも息詰まるくらい興奮させちゃうほど……なんだっていうのが、今更だけど恥ずかしくて。声も、痺れるようなゾクゾクも否定したくて、首を振る。自分のよだれでシーツが濡れてるから気持ち悪い……
「く、るしいの……やあっ……ぅ、ぁんっ、もっ……はやく、出せよっ――ひあぁあッ!」
先走りなのか、もうちょっと出ちゃってるのかわかんないくらいにべちょべちょな先端を、硬くて熱いてのひらが包んできて。ボトルの蓋を開けるみたいに捻るように撫で繰り回されて。疼きどころか痛みに変わってる、ずくずくした射精感を……
「かわいくないからダメです」
スイッチ入ってこの上なく楽しそうな守屋はまだ許してくれないから。
「ぅ、ごめんなさ……なかっ、なかで……だして、くださ……ぃ、いかせてっ」
限界も我慢も、超えて。投げ出したくなって。意識も……思考も手放しそう、なんだけど。
だったら、でも……せめて。
「いっしょ、に……イキたい、ですっ」
必死に頭をめぐらせたら、アイマスクがズリ上がってくれて。涙と光にぼやける視界からやっと、視線が――あれ?
「え……な、なんで、ケータイ……」
「かわいく録れてますよ、真尋さん」
スマホの画面から、涙と汗にまみれた俺へと視線を移して。悪びれなく、というよりは、
「言ったじゃないですか、きっちりカラダで返してくださいね、って」
当然でしょ? と微笑みかける守屋は、ほんとマジで殴りたくなるくらい器用に、なかでイクから。
「ひゃ、ぁあっ――く、ぅっ……なんで、いまっ出す……ンンッ、ぅうぅ」
不意打ちすぎる、仕上げの2突きと奥で弾けるドロッとした熱に、抵抗する隙も堪える暇もなく……イカされる。
「だから俺も隠し撮りしました。だって真尋さんの絵……写真と変わらないくらいお上手ですからね」
守屋が満面の笑みで言い放つと同時に赤いLEDは消える……けど。
写真じゃないだろそれ! 動画だろ明らかに! しかも無音……っ!
「ひぃぃいぃ消してっ! いますぐ削除しろっ!」
「じゃあ真尋さんも捨ててください」
「う、ぐっ、ぅうぅ変態!」
「それ……真尋さんが言える台詞ですか?」
「守屋が言えることでもないだろっ!」
やっぱり、良い思い出なんて増えるワケがない――
_Ex.5 Request 1-blind surrender
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