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お風呂
それから俺たちはちょっとだけキャッチボールをして遊んで、一緒に風呂に入った。
はじめのうち、俺は抵抗した。
やだよ風呂なんて〜。今はポメなんだよ? わかってくれよ〜。そういう気分になれないの!
しっとりと濡れたお目々で久我に訴えかけた。
ふわふわラブリーな体毛はお手入れがけっこう難しいし、万が一、浴槽で溺れたらどうしてくれんのさ?
けれど、久我は懇切丁寧に、渋るポメラニアンを説得した。
「ちゃんと三原専用に、たらいにお湯を張る。ゆっくり浸かってよ。それに、いっぺんに済ませたほうが後の掃除もラクだし……」
居候の身なので久我への負担を考えるとちょっとつらい。……お掃除も大変だもんな。
というわけで、ちょうどいいサイズの金だらいに身を浸してちゃぷちゃぷしていると、久我も浴室に入ってきたのだが。
(──ちんこでっっかっ!!)
その太さにもサイズにも驚愕して、ポメの黒い瞳を剥き出しにするようにして、じっくりとっくり久我のあそこを眺めた。
べ、べつに見たくて見たんじゃない。ぶるんぶるんと揺れていたのが、たまたま目に入ってしまったのだ。不可避な事故だ。
からだもすごい。元運動部の人って大人になって再会するとぶくぶく太ったりしてて青春の夢が冷めるとおふくろから聞いたけれど。久我はそうじゃないんだな。すごく節制して生活してるんだ。
久我って、いったい今なんの仕事してるんだろう? もしかしてサッカー選手だったりする? スポーツの話題に疎いから俺が知らないだけだったりして……。
たらいに溜めたお湯にからだを浸しながらぽやんと見つめていると、久我が照れたように俺から顔を逸らした。わかるよ、ポメラニアンはキュートだよな。
「……俺は今、ジムトレーナーをしてるんだ。できればサッカーで食っていきたかったけどね」
水滴の滴る前髪を掻き上げて目元を緩めた。こちらを見つめる甘いまなざし。くらくらするような色気がほとばしっている。
「わっわっふ!」と俺は意味のない声をもらした。
これが大人の男の色気か〜。女性誌のグラビアを飾れそうだ。
「……サッカー選手になってたら、俺にもっと興味持ってくれた?」
「スンッ(そりゃねーな)」
「ははっ、そっか」
ドライヤーをかけられて、ぶおおおおおと風に体毛が煽られた。久我の指が俺の体毛のあいだに差し入れられ、皮膚をやさしくお手入れしてくれる。
いい匂いが、轟音と強風に乗って鼻先に流れてきた。
シャンプーともボディーソープともちがう。久我の匂い? この家の匂いかな。なんか新鮮で温かみがあって、すんすんすんすん嗅いでしまう。
「一緒に寝てもいいか?」
「きゃんきゃんきゃん!(だだだだだだめに決まってんだろーがバーカバーカ!)」
「残念。でも疲れたよな。ゆっくり休んで」
ぽてって寝転がってるところにふわふわの毛布をかけてくれる。あったけぇぇ。その夜は久我の家の匂いに包まれて眠った。
俺には友達と呼べる存在はポール以外いなくて、同級生の家にお泊まりするのはこれがはじめてだった。
ちょっとだけ、胸の奥がこそばゆい心地がした。
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