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丞の熱情夜日記(2)

 最低なのは俺だ――  仁は酷く恥ずかしそうに俯き、傷ついた表情を隠そうと俺の胸に顔を埋める。  それでもおさまらない自身の欲望を恨めしそうにして唇を噛み締める。  悔しそうに、そしてとびきり恥ずかしそうに、頬を真っ赤に染めて今にも泣きそうなツラをして俺に縋り付く。  俺は余裕のあるふりを装って、せがまれていたキスを乾いた唇に落としてやれば、ホッと少しの安堵の色を浮かべて切なそうに瞳を瞑り、そしてそのまま落とされたキスを受け入れて――  反抗のかけらも見せずに受け入れて――  それどころか、こんな意地の悪いことをする俺を逃がさないとばかりに、抱き付きしがみついてくる。  まるで何処にもいかないでくれと云うように縋り付く。  そんな様を見やりながら、頭がカッとなって、身体中の血が逆流するように熱くなった。  ベッドへ押し倒し、少し乱暴に組み敷いて噛み付くように深いキスを繰り返した。  息も出来ないくらい長くてしつこいキスを、苦しそうに顔をずらしながらも受け入れるのを見下ろしながら、俺の中の加虐心がドクドクと音を立てて増長した。  仁が俺を見上げる切ないとも淫らともつかない恥ずかしげで曖昧な表情は、この上なく欲情を煽った。  俺はひと言も発さないまま、首筋にキスを移し、鎖骨を舐め、薄くてゴツい胸板を通り越して蜜液がぬめる先端へと舌を這わせた。 「っ……い……!」  ビクリと浮いた腰の向こう側に快楽に歪んだ表情が垣間見えた。とっぷりと濃い蜜液を絡めとりながら上目使いにその表情をチラ見する。  思わず溢れ出た嬌声を恥ずかしそうに手で抑えながらも、下半身には無意識に力が入ってやまないらしい。もうビクビクと両の内股を震わせる程、感じまくっているこいつの両脚をグイと掴み、開き、恥ずかしいところを剥き出しにしてやった。 「くはっ、よせ丞っ! そ……んなの、ヤだ」  羞恥心を隠そうったって、感じ過ぎている両脚で俺の力をはね退けることなんぞ出来ねえだろうが。  トプトプと溢れ出てとまらない蜜液を唾液でもっとトロトロにし、唇でついばんではチュウっと音の立つくらいに吸い込んだ。 「ダ……っ、よせってば! 丞っ、そんな……したら、出ちまうっ……!」  切羽詰った声で慌てたように腰をよじっても、掴んだ両脚を離してなんかやらねえよ。俺は極力落ち着きを装いながら低めの声で、 「出せば?」  と、冷淡に言い放った。 「ダメだって――俺だけなん……て、ヤだ」 「構わねえよ、先イケよ。飲んでやるぜ?」 「……っ、そんなの」 「イケってば。お前のやーらしい液、飲んでやるっての!」  クスっと鼻先で笑う余裕をわざとらしく見せつけながら、到達寸前の根元をきゅっと摘んで、鈴口からくびれまでを舌先でクリクリと突付いてやった。 「……っ、ダ……メだってのにっ……!」  お前の意思がどうであれ身体は滅法素直で逆らえねえらしいぜ?  そういわんとばかりに不適に微笑みながら、俺は仁の吐き出した欲望の白濁に喉を鳴らしてすべてを飲み干して見せた。 「すげ、たっぷり。しかも濃くねえ? お前、自分で抜いたりしねえの?」  先に到達してしまって頬を赤らめているヤツをもっと追い込むように、ニヤけ混じりでそう言った。  仁は更にカッと顔を赤らめて、それって羞恥の極地のようでもあって、今にも熟れて落ちんとばかりに頬を紅潮させながら恥ずかしそうに唇を噛み締めていた。  その仕草がたまらねえんだよ。悔しげで切なげで焦れて困ったお前の表情を見ると俺は安心できるんだ。  ちょっと前まではしょっ中、見せてくれたその仕草と表情をいつも傍で感じていないと不安だなんて、俺、本当にヤバイ――  お前に告っちまってからどうにも分が悪くて仕方ねえんだ。  お前が見せる嫉妬心とか焦れた顔とかを見る度に『ああ俺、愛されてんだ』って満足してた。お前はいつでも俺を想って俺だけを見てるって安堵できた。なのに告白して立場が対等になったら急激に不安になるってどうよ?  こんなふうになって自分が如何に小心者だったのかって気付かされる。  いつかお前が俺に執着してくれなくなる日が来たらどうしようって、そんなことばっかり考えては怖くて仕方ねえんだよ。  いてもたってもいられない程に怖くなる。  だからそれを打ち消そうと俺はお前を汚い言葉で詰って蔑んで、意地悪くして――又、前のように優位に立とうとしてる。とことんチンケな野郎だな?  こんな自分がとてつもなく嫌でしょうがねえよ。でも他にどうすりゃいいかなんか解らねえし、思いつかない。  我が侭で勝手なこんな俺の本心を知ったらお前はどうするんだろうな? ――本当は云ってしまいたいと思う。  今の不安な気持ちも、お前をどれだけ愛しく想っているかも、全部を包み隠さず話すことができたらいい。  お前に対する想いの深さが怖くてついつい苛めちまうんだってことも、それ程お前を好きなんだってことも云ってしまいたい。  お前がダチと楽しそうにしてるのを見るだけで心臓が締め付けられるように苦しくなるだなんて自分でも驚きだ、そうやって素直に云えたらどんなに楽になるのかな。  笑いながら全部話して、そして又二人で笑い飛ばして――  きっとお前は照れながらもうれしそうに『バカだな』なんて頬染めてくれるのだろう、それが分かっているけどプライドが邪魔して素直になれない。  そんな本心を全部さらけ出しちまったらもっと俺の立場が弱くなりそうで……怖いんだ。  本当は立場なんてどうでもいいはずなのに。  どちらが優位だなんて無いはずなのに、俺は一体何を頑なにこだわっているんだろうって、自分でも自分が解らなくなるよ。  きっと俺がお前を想う気持ちと、お前が俺を想ってくれる気持ちとがぴったり同じ量じゃなきゃ嫌なんだ、俺。  そして出来るならお前が俺を想ってくれる量がほんの僅かに多ければ尚いい、そう思ってる。  自問自答を繰り返していたらそんな答えに辿り着いた。  俺って何て女々しい野郎だろう。情けなくなって言葉も詰まってうなだれた。 「丞? 大丈夫? もしか具合悪くなっちまった……? その、俺のなんか飲んだから――」  ふわりと傍に温かい存在を感じてハッと我に返れば、そこには仁が大真面目な表情をして俺を覗き込んでた。 「平気か? あの、ごめん、俺――」  自身の精液を飲み込んだせいで俺が具合悪くなったとでも思ったのだろうか、仁は心底心配そうに、そして申し訳無さそうに瞳を歪めて、でも本当に真剣な顔をして俺の様子を気遣っていた。 「バカ……そんなんじゃねえって! 具合なんか悪くなるわけ無えじゃん。ちょっとね、考え事してたの!」  あまりの感激に俺は言葉をもつれさせながらも明るくそう言って笑い、照れ隠しに仁の肩をぎゅっと抱き寄せた。  本当はこんな表情が見たかったくせに……。  こんなふうに俺のことだけを考えて心配して気に掛けてくれるのを望んでたくせに、いざそうされると感動して言葉に詰まっちまうなんて、何て矛盾だよ――  とことん天邪鬼な自分に苦笑いがこみ上げた。  そんな気持ちを気付かれたくなくて仁を抱き寄せ、胸元に抱えてごまかして、 「美味かったぜお前の。濃くてやらしくって」  わざと冗談っぽくそう言って抱えたヤツの髪にキスをした。  甘く、とびきりやわらかくキスをした。 「……ンな、濃いとか言うなって! 俺だって独りで抜くくらいは……するってーの……!」  え――?  あまりにも突飛だったせいか、俺は仁の顔を見つめ、キョトンと凝視でもしていたのだろう、ヤツは恥ずかしそうにしながらも同じ言い訳を繰り返した。

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