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丞の熱情夜日記(5)

「仁、ごめんっ! ごめんな……」 「っわ! 何だよ急に! おいバカ、丞ー! お前、重いっつーの!」 「だってよ、まさかお前がそんなん思ってくれてるなんて……気が付かなかったつーっか……」 「そんなんって何よ!」  仁が以前と変わらずに俺に対して嫉妬してくれていることが、事の他うれしくてたまらなかった。  それなのに独りで焦れて、『愛されてる』って実感が欲しいばかりに乱暴に扱ったりして本当にごめん、悪かった。自分のガキさ加減がみっともなくて、情けなくて、だけども仁の気持ちはうれしくて、もう何が何だかまとまらねえよ――  さっきまでの独りよがりの仕打ちを懺悔するように、俺は仁を抱き締めた。やさしく甘く、けれども激しい感情もとめられなくて、結局は乱暴になっちまうんだけれど。それでもできる限り大切に、仁が好きだという気持ちを込めてキスを繰り返し抱き締めた。 「丞っ、ヤバイって! 時間もう無いぜ! 早くしねえと……」 「いい。延長すりゃいいよ」 「ンなこと言ったって、お前……」 「だってほら、コレ。こんなんじゃすぐに外出れねえし?」  又、熱を帯び始めた分身を仁の腹に擦り付けて、俺は自ら仁の胸元に甘えるように顔を埋めた。そうするとヤツは頬を真っ赤にしながら『バカ……』とだけ小さな声で呟いた。そして再び昂ぶったものを仁の秘部へと押し当てて、俺たちは又しばし夢の中で互いを貪り合った。 ◇    ◇    ◇  滞在を延長したが、それでも時間が足りなくなっていた。  少し慌て気味にモソモソと着替えをしている仁を横目に見ながら、俺も又、ゆっくりと服を手に取った。 「な、仁。さっきのバイトの話だけどさ? 俺さー、実は秘書のバイトしよーかなって思ってんだよね」 「えっ……!?」 「会社の名前はお前もきっと知ってると思うけど。音楽プロダクションの専務の秘書っつーか、要は荷物持ちみてーなもんだと思うんだけど。そこがずっと募集しててさ」 「プロダクションだ!? 俺も知ってると思うって……それ何処よ!? 有名レーベルとか? つーか、お前ってそんなに音楽とか好きだったっけ?」  仁は驚いたようにすっとんきょうな声を上げた。 「んー、別に音楽がどーのじゃなくって。他の職種でも全然構わねーんだけど、何となくその募集が気になるっていうか、ずっと頭に引っ掛かっててさ」  仁はあまりに意外だったのか、しばらくキョトンとしながら軽い硬直状態といった調子で俺を見つめていた。  とにかく時間がギリギリだったので、俺たちはひとまずホテルを出て、だが何となくすぐには電車に乗る気にもなれなくて、少し歩こうかと俺は仁を誘った。さっきの話の続きをしたかったからだ。 「確かにちょっと変わった仕事だけどよ、何となく惹かれるっていうか興味あるんだ。そのプロダクションってさ、何でも大学の同級生同士が意気投合して二人で立ち上げたって話なんだよね。で、今じゃ業界最大手とかって言われてるぐらい有名にのし上ったってんだけど」 「え!? それってまさかアレじゃね? TSプロのこと!?」 「そ! やっぱ知ってるだろ? 超有名だしよ?」 「超有名って、お前なー! なんか現実離れしてねーかっつの! つか、何処でそんな募集探して来たわけよ!?」 「はは、何処でって。ネットに載っててさ」  仁は益々呆れ顔で、ポカンと俺を凝視した。 「ま、有名とかそんなんは正直どーでもいいんだけど……。要はそこの社長と専務ってのが同級生で学生時代から超仲が良かったらしくって、ずっとツルんでたんだと。で、二人っきりで商売立ち上げて、今じゃすげえ成功してさ。そんな人の人生を傍で見てみてーっていうか。なんかの足し――いや、勉強になるかなと思ってさ」 「ベンキョって……」 「うん、何となく憧れるっつーか、自分らの夢に向かってがんばって、そんでもって実現してさ? すげえなとか。そんな人の付き人やりゃ何か俺にも得るトコあるかなって。確か三十歳くらいだと思うけどその専務らって」 「そんな若いんだ」 「ん、そうみてえ。三十歳っつたら俺らよか十コくらい上なだけじゃん? そんなに歳違わないから余計に興味あるっつーか……。何となく手が届きそうな感じがするんだよね。望んだ人生を実現してるいい見本っていうか、どうやりゃそんなふうになれるのかなとかさ。つーか俺、ホントは自信無えんだ。今のままじゃ世間のことも何も分からねえ只のガキだしよ。何となく神頼みっていうか、とにかく自分を変えたい。自信をつけたい。お前とずっと一緒に歩いて行きてえから」 「丞……」 「こないだ海行った時にも言ったけど、やっぱ親の説得とか世間の目とかさ、俺らにはこの先結構ハードな道(人生)が待ってると思うんだよね? でも険しいからってお前とのことだけはぜってー諦めたくねえし! それには自信が必要なんだ」 「丞、お前……」 「自信、っつーか経験とでも言った方がいいのかな? とにかく何かしねえといらねえっつーか。自立する為の社会勉強っての? 何でもいいから学びたい。若くても夢を形に出来るそんな人たちの傍でなら、きっと何か掴めるもんがあるかなって。何となく気が騒ぐっつーかさ、気になってしょーがねんだよ。ま、それ以前に面接落ちるかもな方が可能性大なんだけどな。かれこれもう二週間も募集出っ放しだから」 「そんなイイ仕事なのに? まだ誰も応募来ねえってこと?」 「いや、多分面接で落とされてるんじゃねえかとか思ったり。だって普通そうだろ? そんなイイ仕事ってお前も思うだろ?」 「ああ、まあ……そうね、確かに。けど案外皆そう思って応募しないだけだったり? ほら、倍率高けぇし――とかって」  瞳を大きく見開いて、俺を励ますような、それでいてすがるような何ともいえない表情をするコイツが愛しかった。  いつも一生懸命に俺の話を聞いてくれるこの瞳をずっと放したくはない。  ずっと――例えどんなに険しい道でもこいつと一緒に歩いていきたい。 「そうだよな。当たって砕けろだよな?」 「うん、そうだよ。がんばって行ってみろって! 俺も応援してっから」 「おー、ほんじゃ早速明日にも電話してみっかな?」 「だな?」  にっこりと微笑んでガッツポーズをして見せたりするコイツが、マジで大切で大切で仕方ねえよ。俺は何だか心が温まるような気がして、キュッと胸が熱くなった。

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