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アイオープナー ⑤

「……チッ、どうでもいいけど、こういう事したいんならキャバクラにでも行け。俺は酒を飲みに来たんだ。あんまセクハラまがいな事してっと、もう二度とてめぇの誘いには応じねぇぞ」 「それは困るな……」  瀬名はクツクツと笑うと、やっと理人から少し距離を取って座りなおした。 「たく……。心配しなくたって後でちゃんとソッチの方も付き合ってやるっての」 「えっ!? いま、なんて?」 「……っ、なんでもねぇ」  ぼそりと呟いた言葉はどうやらはっきりと聞き取れなかったらしい。瀬名はキョトンとした顔つきで問いかけてきたが、理人は不機嫌そうに鼻を鳴らすと誤魔化すようにグラスに残っていた酒をグイッと一気に飲み干した。 「おい、次は何飲むんだ?」 「僕ですか? じゃぁ、アイオープナーで」 「……これまた随分クセのあるモン頼むんだな……」  アイオープナーはジンをベースに卵黄とオレンジキュラソー等をシェイクした黄金色のカクテルだ。見た目こそ綺麗な黄色をしているが、辛口で飲みやすいとはけして言いきれない。クセの強い味をしている。この店で扱っている中ではアルコール度数が高い部類に入る。 「飲んでみたかったんです。貴方と……。運命の出会いだと思ってますから」 「……チッ……恥ずかしいヤツ」  不意打ちのように真顔で告げられ、理人は頬が熱くなるのを感じて誤魔化すように顔を背けた。アイオープナーを注文して間もなく、ニマニマと笑みを浮かべたナオミがカクテルと小さな小皿に盛られたナッツ類を持って現れた。 「ゆっくり楽しんでってね! あぁ、でもあまりは出しちゃ駄目よ」  意味深な含みを持たせた言い方をしてウインクしてくるナオミに眉根を寄せると、理人は小さく舌打ちをした。 「ケンジてめぇ……調子乗んなっ! スるわけねぇだろ馬鹿っ!」 「やぁねぇ、本名で呼ばないでちょうだいっ!」  理人が一喝すると、ナオミは心外だと言わんばかりに唇を尖らせて踵を返した。  その様子を瀬名がクスリと笑って見ている。 「部長って、会社の時とほんっと別人ですよね……」 「あ? それはてめぇも同じだろうがっ、眼鏡はどうした」 「あぁ、アレですか? 伊達です。……前の会社で色々あって……」  そう言って言葉を濁し、瀬名は目の前に置かれた黄金色のカクテルに口を付ける。 「なんだか、不思議な味がしますね。 でも、思ってたより飲みやすいです」  美味しそうに目を細める瀬名に「物好きなヤツだ」と呟くと、理人は自分が注文したウィスキーを煽った。  

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