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アイオープナー ⑫

「――このっ、何回ヤれば気が済むんだっ」  火照った身体をベッドに横たえ、理人は隣でゆったりと煙草を燻らせている相手をキッと睨み付けた。  ベッドの上では瀬名も素っ裸で、腰から下は上掛けで隠れているもののその上半身は惜しげもなく晒されている。均整の取れた身体は無駄な脂肪など一切なく、程良く筋肉が付いていて男から見ても惚れ惚れする程だった。 「すみません、止まらなかったもので……」 「たく、高校生じゃあるまいし……限度を考えろ」 「でも、部長だって悦んでいやらしく腰くねらせてたじゃないですか……」 「うるせぇ。黙れ」  理人は枕を掴むと、瀬名の顔面にぶつけた。 「痛っ、酷いなぁ……」 「お前が余計な事を言うからだろうが」  言いながら理人は気だるげにうつ伏せになると、髪を掻き上げて溜息を吐いた。 「まだ動けないんですか?」 「当たり前だろうが。どんだけヤったと思ってるんだ」 「いやぁ、若くてすみません」 「……喧嘩売ってんのか?」  ギロリと睨み付ければ、瀬名は「冗談ですよ」と言って苦笑いを浮かべる。本当に食えない奴だ。  そう言えば、自分に運命の出会いを感じたと言っていたがアレはどういう意味だろうか?  自分とは偶々ナオミの店で出会って、一夜を共にしただけの関係だったはずだ。  まさか自分の勤めている会社に、新入社員として入って来るなんて思ってもみなかったが、それを運命と呼ぶのは些か大袈裟ではないかと思う。 「――おい。お前は何で、運命の出会いだなんて言い出したんだ?」 「いきなりどうしたんですか?」 「いいから質問に答えろ。俺は運命なんざ信じてねぇし、愛だの恋だの面倒くせぇし、必要も無いと思ってる……。好きじゃなきゃヤれねぇってわけでもねぇし、誰とヤったってたいして変わんねぇだろ……それなのに、お前は俺と出会ったのを運命だとか訳わかんねぇこと言いやがって……納得いく説明をしろ」  理人の言葉に瀬名は少し驚いたような表情をした。それから暫く何か考え込んでいる様子だったが、灰皿を手に取ると、トンと煙草の先を押し当てて消してから理人に向き直り静かに口を開いた。 「そうですね……以前僕が勤めていた会社で貴方の書いた資料を読んだことがあるんですよ」 「俺の……? 」 「はい。現在のGPS技術に関する報告書で、部長の開発した製品で犯罪を未然に防ぐ事が出来るという画期的なものだったと思います」 「……それがどうした」 「他の資料もいくつか拝見させて貰いましたが、どれも説得力があって凄いなと思ったんです。ピックアップして来る数値、その分析、結果導き出される考察……どれをとっても素晴らしいと思いました」 「それで?」 「僕は、ぜひこの人のもとで働きたいと思った。部長の下でなら僕の才能を発揮出来る、もっと成長できる……そんな気がしました。丁度、人間関係が嫌になっていた時期だったので、ちょうど良かったんです。そしたら――……転職する前日に思いがけず貴方に会ってしまった。まぁ、まさか酔っぱらって積極的に仕掛けてきた相手が、自分が憧れを抱いたその人だったなんてその時は夢にも思いませんでしたけど」 「……」 「だから、会社で貴方を見た瞬間に思ったんです。これはきっと神様がくれたチャンスなんだと……」  瀬名は目を細めて微笑むと、そっと理人の頬に手を伸ばしてきた。指先が優しく理人の輪郭をなぞる。  瀬名の真剣な眼差しに思わずドキリと鼓動が大きく跳ねた。 「まだ一緒に仕事をして2週間足らずですけど僕は貴方に惹かれてる。真面目で、仕事熱心で、妥協を許さないところも好きだ。部長のそういうところを尊敬しています。僕には絶対真似出来ないことだから……」 「……っ」  真っ直ぐに見つめてくる瞳に耐えきれず、理人は視線を逸らして布団を引き寄せるとその中に潜り込んだ。  顔が熱い。心臓がドクンドクンと脈打っている。  今までこんな風に面と向かって好意を告げられたことなどなかった。 「あれ? 照れちゃったんですか?」 「五月蠅い。黙れ」  理人が潜ったままモゴモゴと言うと、瀬名はクスリと笑って上掛けごと理人を抱きしめてきた。 「……好きです。部長」  耳元で囁かれる甘い言葉に理人の体温が上昇していく。 「……っ知らん、もう寝る」  理人は瀬名を突っぱねるとそのまま背を向けた。だが瀬名は構わず理人の首筋にキスを落とすと、チュッと吸い上げてきた。  ビクッと肩を震わせると瀬名は理人の耳元に唇を寄せてまた低く囁く。その声が妙に色っぽくてゾクリとした。  まるで暗示を掛けられているみたいに瀬名の声が頭の中でリフレインする。身体が熱くて堪らない。  瀬名は理人の背中にピッタリと寄り添うと、再び腰に手を回してきた。そしてそのまま下へと滑らせると尻臀にそって円を描くように撫で始める。 「おい、てめぇ……何シようとしてんだ!? これ以上は無理だつったろうがっ」 「大丈夫ですよ。今度は最後までしませんから」 「……お前のその言葉を信用しろと?」 「はい。ただ触るだけですから」  魅惑的な笑顔を向けて瀬名が覆いかぶさって来る。 「…くそっ、お前なんか嫌いだっ!!」 「僕は好きですよ」 「~~~ッ」  ――結局、その後もう一ラウンド交えてから二人は眠りについた。

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