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ギブソン ④

 喫煙ルームは会社の各フロアに一か所ずつ設置してあり、5~6人ほどが室内で吸えるようになっている。昨今の禁煙ブームや、煙草の増税に伴い年々喫煙者は減少傾向にあるが、ある一定数の社員や社長自らがヘビースモーカーな事もあり、完全に無くなってしまうという事は今のところなさそうだ。  理人はポケットからシガレットケースを取り出して一本口にくわえると、愛用のジッポで火を点けた。  ふぅ……と紫煙を吐き出しながら、ガラス張りの壁に寄り掛かり外の景色を眺める。  外を吹く風は冷たく、気温も12月上旬の朝にしては随分と低かった。そのせいか眼下に見える人々は皆身を縮こまらせてコートの襟を立て足早にそれぞれの社内へと消えていく。  少し遠くに視線を向ければ、空気が乾燥している為か雪化粧を施した富士山がビルの隙間か ら美しい姿を現している。  この会社は都内でも比較的高所に位置しており、見晴らしが良いので冬の季節になると、こうしてよく富士山が見えるのだ。  それを横目に、理人は再び肺に溜めた紫煙をゆっくり吐き出した。  喫煙ルームには現在理人しかおらず、静かだ。丁度1本分吸い終わりそうになった頃、ドアが開く音がした。誰かが入って来たのかと思い視線を向けるとそこには瀬名の姿があった。 瀬名は中に誰もいないことを確認すると真っ直ぐに理人の元へと近づいてくる。  てっきり他の社員が来たのだと思っていた理人は何となくバツが悪くなり、慌てて口元の煙草を灰皿に押し付けた。 「お前はストーカーか何かなのか?」 「酷いな。僕はただ休憩しに来ただけですよ」  そう言いながら瀬名はポケットから煙草を取り出すと口に咥え、理人の隣に並ぶようにして壁際に立つ。 相変わらず仕事の時は前髪を下ろしたままなのだな……などとどうでもいいことを考えながら、ついその様子を観察してしまう。 瀬名の顔は、正直かなり整っている方だと思う。女性受けしそうな甘いマスクに、すっと伸びた鼻筋、薄く形の整った唇。日本人離れした顔立ちは、黙っていれば確かにモデルのような雰囲気を持っている。  女除けの為にわざとこの髪型にしているのだとしたら、効果は充分出ているようだ。  そんなことをぼんやりと考えていると、瀬名は不思議そうに首を傾げた。

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