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ギブソン ⑤

 そして、何を思ったか突然顔を近づけて理人の匂いを嗅いでくる。   あまりにも自然な動作だったので避ける事も出来ず、瀬名の吐息が首筋にかかり思わずビクリと肩が跳ねてしまった。   それを見て瀬名は小さく笑うと僅かに屈んで唇を寄せて来た。 「おい、何して――」  流石にそれは不味いと、慌てて腕を伸ばして距離を取ろうとしたが逆に引き寄せられて顎を掴まれ半ば強引に唇が重なった。理人が身じろぎをして逃れようとするのを許さないとばかりに、腰を抱き寄せ窓辺に押し付けられる。そのまま舌先でノックするように唇を舐められ、理人は反射的に歯列を開いた。すると、そこから瀬名の熱い舌が入り込んできて、ねっとりと絡め取られる。 「ん、ちょ……まっ……んんっ」  逃げようにも後頭部を押さえつけられていて動けない。それに、瀬名のキスはいつも執拗で甘くて頭が蕩けそうになる。瀬名の胸を押し返すが、びくともしない。  それどころか、いつの間にか指先がシャツのボタンを器用に外していて、その冷たい手が肌に触れた瞬間ゾクッと背筋が震えた。 「っおい、ここを何処だと――」 「会社の喫煙室ですね」  やっと唇が離れたと思ったら、今度は胸元に顔を埋められる。  瀬名のサラリとした髪が鎖骨を撫で、吐息が掛かる度に体がぴくりと反応してしまう。 「昨日、理人さんを味わえなかったから……理人さんが不足しているんです」  まるで情事の最中の様な艶っぽい瀬名の声音に、思わず息を呑む。 「な、なにを……馬鹿な事を……誰か来たら……っ」 「こんな朝早くに此処に来る馬鹿は滅多にいませんよ」  そう言って貪るような激しい口付けを再び仕掛けてくる。  先程までとは違い激しく絡み合う舌はまるで性感帯を刺激されているようで、理人は体の中心に熱が集まるのを感じた。  けれど、瀬名の行為は止まらない。キスの合間に胸の飾りを摘ままれ理人は声にならない悲鳴を上げた。 「ひぁっ……」 「理人さん、可愛い……」 「やっ……ぁ……やめ……っ」  耳を甘噛みされながら艶のある低い声で囁かれる。その声だけで、全身が敏感に反応してしまう。これ以上は駄目だ。本当にマズイ。そう思って瀬名を何とか引き剥がそうとするが力が入らない。そうこうしている間に瀬名はあろうことか理人のズボンの上から性器を握りこんだ。 「ぁ……っ! それは、だめ……だ……っ!!」  制止の声も虚しく、すでに勃ち上がりかけていた自身を握り込まれてしまえばもう抵抗なんて出来なかった。激しいキスをしながら上下に擦られ、同時に胸の突起を愛撫される。それだけで理性なんて簡単に崩壊してしまい、あっという間に達してしまいそうな程の快感に襲われた。 「ん……っは……ぁっ、も……っ」  このままでは、瀬名の手で射精かされてしまう。羞恥心からどうにか堪えようと必死になるが、瀬名の巧みな手の動きによって翻弄される。そして、とどめと言わんばかりに先端をグリッと親指で強く押された途端、理人の思考はスパークして意識が飛んだ。  次の瞬間――。  カチャリとドアが開く音がして、ハッと我に返る。  咄嵯に瀬名を突き飛ばして距離を取ると、ドアの方に視線を向けた。 「……あれ? 」  そこにはきょとんとした表情でこちらを見つめる係長の姿があった。どうやらドアを開けると同時に中の様子を伺おうとしていたらしい。 「す、すみません。邪魔するつもりはなかったんですけど……」 「――っ失礼するっ」 「あっ! ちょっ、部長っ」  慌てる瀬名を無視して理人はその場から逃げ出す様に足早に立ち去った。

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