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ギブソン ⑦
忙しい一週間が終わり、企画開発部のメンバーと他いくつかの部署とで合同の忘年会が行われた。
乾杯の音頭の後、みんなで鍋を囲みながら思い思いの席へ移動して、わいわいと盛り上がっている。
同世代以下の男女が固まっている席では、流行りの曲や恋愛の話、スポーツについてなど話題が豊富で賑やかだった。
「えーっ!? 朝倉係長の娘さんってあの、みなみちゃんだったんですか!? 」
「そうよ、超美人さんなんだから、ね? 朝倉係長」
「あ、あぁ……この子なんだ」
経理の若い女子達に囲まれ愛娘を褒められ、普段辛気臭い顔をしている係長も満更でもなく嬉しそうな表情を浮かべている。詳しい事はわからないが、何かのジャンルでの有名人らしいことは会話の流れで何となく想像が付いた。
理人の隣のテーブルでは、今日の幹事である萩原が、彼の結婚を知った社員たちに弄られている所だった。
「萩原君、結婚するなんて知らなかった!」
「おめでとうございます」
「ねぇ、彼女の写真見せてよ。もしかして、大学時代から付き合ってたって言う彼女?」
「はは、一回別れてたんだけど、2年くらい前に偶然会っちゃってそのままって感じかな。写真は……ちょっと恥ずかしいよ」
「えー、いいな。式はいつ頃なんですか? 新婚旅行は?」
周りの人達から祝福されてデレデレしている萩原は本当に幸せそうな顔をしている。
こうやって、普段あまり見慣れない部下たちの新しい一面を眺めるのが理人は好きだった。
自分から積極的に輪の中に入っていくタイプではないものの、こういう場は嫌いでは無い。
皆がわちゃわちゃしているのを眺めながらチビチビと酒を飲み、鍋をつついていると視界の端に瀬名の姿を見つけた。
何気なくそちらに視線を向けると、彼は少し離れた所で女性陣に取り囲まれていた。今日はいつものもっさりとした頭ではなく、無造作に髪を上げ、惜しみなく色気を振りまいている。女子達に囲まれている彼はやはり、職場で見る男とは別人のように見える。
「瀬名くん、これ美味しいから食べてみて」
「あ、ずるい! 私が先だよっ」
「ははは、ありがとう。あ、そうだ。ついでにこれも食べる?」
瀬名は、自分の器に盛られていた肉と野菜を箸で掴むと、彼女たちの口の前に持っていく。
「瀬名くん優しい~」
なんて甘ったるい猫撫で声を出しながら、上目遣いに瀬名を見つめる視線は明らかに誘いを滲ませている。
よほど自信があるのか、胸を腕に押し付けたり、ボディタッチをしてくる女子達に、瀬名は全く動じる事無く笑顔で対応していた。
「――――」
それを見ていた理人の胸に何とも言えないモヤモヤとした嫌なものが広がった。
「チッ、嬉しそうにデレデレしやがって……」
何が女除けだと毒づくと、何となく面白くなくて、理人はビールの入ったグラスを一気に煽った。
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