30 / 127
ギブソン ⑭
気が付くと見慣れた天井と照明が目に入った。
頭はガンガンと割れるように痛いし、おまけに腰も尻も痛い。
今、何時頃だろうか? 寝返りを打とうとして、視界いっぱいに瀬名の寝顔が見えてドキンと心臓が大きく跳ねた。
「おい、寝てんのか?」
「……」
問いかけてみても、返事はなく代わりに規則正しい寝息が聞こえてくる。
「チッ、気持ちよさそうな顔しやがって……っムカつく」
言いながらモソモソと布団の中に潜り込むと、瀬名の懐に収まるようにして身体を寄せる。温もりが心地よくて離れ難い。
『――理人さん……愛してます――』
意識が落ちる瞬間に言われた言葉が脳内にリフレインしてきて、じわじわと頬が熱くなるのを感じた。
愛だの恋だのくだらない。そう思っていたはずなのに、それが妙に心地がいいと言うか、くすぐったい。
若くて顔が良くて都合よく遊べる「セフレ」 本当なら一夜限りの関係だったはずなのに、身体の相性が良すぎるせいでずるずると関係を続けてしまっている。
宴会の席での女子に対する反応を見る限り、きっと瀬名は他の女性ともそう言うことが出来るのだろう。何も理人だけが特別なわけじゃない。それを考えると何故か胸の奥がズキリと傷んだ。
「ん……理人さん……?」
「っ……」
不意に瀬名が目を覚まし、驚いた理人は慌てて距離を取ろうとしたが時既に遅し。瀬名は理人の身体を引き寄せて抱きしめると、首筋に唇を寄せて強く吸い付いた。
「っ……! ばか、見えるとこには……」
「大丈夫です、服着てれば見えないところに付けましたから」
「そういう問題じゃねぇよ」
理人は眉間にシワを寄せて瀬名を睨みつける。だが、瀬名はお構いなしと言った様子でニヤリと笑った。
「昨夜の理人さん、凄く可愛かったです」
「うるせぇ、黙れ」
なんだか恥ずかしくなって上掛けごと背中を向けると、瀬名は背後から抱きついてきた。瀬名の体温を全身で感じて鼓動が速くなっていく。
「理人さん……好きです」
「……」
「ずっと一緒に居たい……」
瀬名は切なげな声でそう言って、理人を包み込むように抱きしめてくる。
「……会社でずっと一緒じゃねぇか」
「それでも足りないんです」
「お前なぁ……」
ため息をつくが、その腕を振り払う事はしなかった。
「お前みたいな絶倫と一日中一緒に居たら俺の身体がもたねぇよ」
「でも、好きなんでしょう? 僕とのセックス」
「……調子乗んなよ、クソガキが」
悪態を吐くが、どうにも甘くなってしまう。理人は瀬名に向き直って軽く口づけると、その耳元に囁いた。
「……まあ、嫌いじゃない」
「ふふっ、素直じゃないですね」
瀬名は嬉しそうに笑って理人の身体を抱き寄せ、啄むようなキスをする。
冷えた朝の空気が甘い熱を帯びて部屋いっぱいに広がっていく。
「……そう言えば、お前なんで昨夜は髪の毛上げてたんだ? 女除けのつもりならいつもみたいに前髪被せとけばよかったじゃねぇか」
「え? あぁ、アレ……ですか? あんな風にして女性に囲まれてたら、理人さんヤキモチ妬いたりしてくれないかなぁって思って」
「……は?」
予想していなかった答えが返って来て、思わず理人の口から間の抜けたような声が洩れた。
「まぁ、あくまでも希望的観測だったんですが。まさかあんな風なヤキモチの妬き方するなんて……」
「じゃぁ、なにか? 俺は最初からお前の手の平の上で転がされてたって事か」
「まぁ、簡単に言っちゃえばそうですね。ヤキモチ妬く理人さん可愛かったですよ」
「っ……!」
瀬名はクスッと笑いながら、理人の身体をベッドに押し倒す。
「おいっ! お前は何しようとしてるんだっ!」
「何って……ナニですけど?」
「ふざけんなっ! 昨日散々ヤっただろうがっ!」
「僕はまだ足りません」
「この性欲魔人が……っ!」
「誉め言葉として受け取っておきます」
「褒めてねぇから!! って、おいっ! 話を聞け!!!」
朝の澄んだ空気に理人の叫びが響く。瀬名は楽しげに笑いながら、抵抗する理人に覆いかぶさった。
ともだちにシェアしよう!