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スティンガー ③
「……お前はっ! ……鬼塚理人!」
「ぁあ?」
大きな声に振り返ると、そこにはこげ茶色の髪を後ろに撫でつけた男が立っていた。年のころは自分と同じか、もしくは2~3歳ほど年下だろうか。長身で、そこそこ顔はいいが、正直言って理人のタイプではない。
「ふっふっふ、高校以来だな鬼塚理人! ここで会ったのも何かの……」
「えっ? 誰?」
「さぁ? こんな奴は知らん」
こんな暑苦しそうな男、一度会ったら忘れないだろうに、記憶の中に見当たらない。
「って!! 話を聞けっ!!」
「悪いが、人違いじゃねぇのか?」
「……っ、いやそんなはずはない! その童顔に対しての目付きの悪さ! 間違いなく貴様は……」
「チッ、ごちゃごちゃうるせぇな……誰だよてめぇ……」
「……っ、このおれを覚えてない、だと……?」
本当に知らない。こんな鬱陶しい絡み方をしてくるような知り合いなんて心当たりがない。ぎろりと睨み付けると、男は少し怯んだように一歩後ずさった。
だがすぐに立ち直ると髪を掻き上げ無駄にうっとおしいオーラを振りまきながら格好つけている。
「……フっ、忘れたのなら仕方がない。高校を卒業してもう15年以上経つんだからな! 仕方ないから思い出させてやろう。 おれの名は間宮大吾だ! どうだ、思い出したか!?」
「……いや、知らん」
「なっ……!! き、貴様っ!!」
知らないと言った瞬間、顔を真っ赤にして怒り出した間宮に理人は面倒臭そうにため息を吐いた。
「まさか、本当に覚えてないとはな……俺は、今まで片時も忘れた事なんて無かったのにっ!」
「……なんだ、コイツ……きめぇ……」
「シッ。取り敢えず聞いてやれば?」
此処が披露宴会場で無かったら今すぐに張り倒している所だったが、透に静止され渋々腕を組みなおした。間宮と名乗った男は、完全に自分の世界に酔っているらしく、両手を広げ、演説するように語り始める。
「……あれは、高校の卒業式の事だった。通いなれた屋上で俺はお前に一世一代の告白をしたんだ」
「……あー……」
そう言えばそんな奴もいたなぁと、理人はぼんやりと思った。
「なのに、お前は……『一昨日きやがれ、くそ野郎』と言って嫌味なくらいの笑顔で俺を振りやがった……」
「そりゃ、そうだろうな」
だって、気持ち悪かったし。いや、今でも充分すぎるくらい気持ちが悪いが。
「あの日から俺はお前を見返す為に、肉体改造を行い、夜な夜なゲイ専用アプリを駆使して男を磨いた」
「……磨くとこ、そこじゃねぇだろ……」
「いいんじゃないか? なんか、面白いし」
そう言いながらクスクス笑う透に理人は思わずムッとした表情を浮かべる。
別に面白さは求めていない。どちらかと言えば、うざったくて早く張り倒したい。
「30を過ぎてオッサンになったお前を、馬鹿にして嘲笑ってやるつもりだったのに……っ! なのに、なんでお前は……そんな若いままなんだ!? しかも、妙な色気が増しているしっ!」
「知るか! ……馬鹿らしい」
感極まったように拳を握りしめる男に、理人は眉間にシワを寄せた。
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