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スティンガー ⑤

 その後、無事に披露宴も終わり瀬名と合流を果たすと、二人は連れ立って近くのバーへと足を向けた。昼間はあんなに暖かかったのに、夜になると急激に冷え込みが厳しくなる。少し厚めのジャケットを羽織り、沢山のイルミネーションに彩られた並木道を並んで歩いていると、不意に瀬名が口を開いた。 「なんか、今日の理人さん。いつも違った雰囲気がしていいですね」 「……まぁ、結婚式だったしな。流石に普段遣いのスーツという訳にはいかないだろう」 「あぁ、それもありますけど。今日はなんか、格好いいなって思ったんです」  さらりと褒められて、理人は僅かに動揺した。ストレートに褒められると、どう反応したら良いか分からなくなる。 「……お世辞はよせ」 「酷いな。僕は本当の事しか言いませんよ――……早く、この姿の理人さんをぶち犯したい」  耳元に息を吹き込むようにして囁かれ、一瞬で、周りの空気が凍った気がした。 「お、お前の頭の中はそればっかりだな」  げんなりとした表情を浮かべると、瀬名は妖艶な笑みを浮かべた。 「理人さんだって、嫌いじゃないくせに」 「……」  この男の本質はこちらなのかもしれない。  普段は一見すると無害そうで、穏やかに見える表情の下に隠された獣が顔を出す瞬間にいつだってゾクゾクさせられる。  だが、それを表に出す事はしない。そんなことをすれば、この男を喜ばせるだけだ。 「さて、どうだろうな……」  適当に言葉を濁しながら歩いていると、可愛い美青年を連れた間宮とばったり出くわした。  もう二度と会うことも無いと思っていたのに、まさかこんなすぐに再会するとは思っていなくて驚いたのと、気まずいので理人はしばらく間宮を凝視する。 「な、な……なんでお前がこんな所に……」  間宮は狼狽えながら、理人を見て、そして瀬名の方へと視線を移した。 「っ……さっきとは違う男、だと……!? しかも無駄にえろいイケメンだし」  愕然とした表情を浮かべ、ワナワナと震えている。 「ハハッ、そうか……、鬼塚理人……どうやらお前は、おれの想像を絶するような乱れた関係のようだな!」  コイツは一体何を勘違いしているんだ。まさか本当に自分と透がそういう関係だと思っているのだろうか。 「……理人さん、この人何なんですか?」  何を言っているのか理解できず、瀬名は怪しげな表情を浮かべ二人を見比べた。その表情は、明らかに不快感を示している。  そんな表情を向けられ、間宮は一瞬怯むが、すぐに体勢を立て直すと鼻息荒く、ずいっと前に出て来て瀬名に詰め寄った。 「ふっ、そこのイケメン君……いい事を教えてやろう。その男は、デカいクマ男と浮気している!」 「……あ?」  ビシッと指をさされたと同時にシン……とその場が静まり返り、理人は額に青筋を立てた。  誰が誰と浮気をしているだって? この男は一体、自分が何を言っているのか分かっているのだろうか……? 「おい、てめぇ……何ふざけた事抜かしやがる!」  ドスの効いた声で凄んでやると、間宮はヒッと悲鳴を上げて連れの美青年の後ろへ隠れた。  そんな情けない姿を晒す間宮に、理人は怒りを通り越して呆れ果てる。  本当に救いようのない男だ。  どうしてくれようかと思案していると、唐突に腕を強い力で掴まれた。 「……理人さん……浮気なんて、何かの間違いでよね?」  地を這うような低い声がして、腕を掴む手に力が込められる。痛みで眉間にシワを寄せると瀬名の顔を見た。その瞳は仄暗く澱んでいるように見える。 「……おいおい、まさかとは思うが、あんな戯言、真に受けてるんじゃ……」  呆れたように瀬名を一蹴するが、冷ややかな視線を浴びせられて思わず言葉に詰まる。 「……まさか、本当……とかじゃないですよね……? いや、でも……理人さんなら……」  瀬名の表情は穏やかだが、妙な迫力がある。何より目が氷のように冷たくて怖い。 「おい、誤解だ……俺は何も……」  慌てて否定しようとするが、瀬名はじっと冷ややかな眼差しで見つめてくる。まるで尋問されているような気分だ。 「……帰りましょう。理人さん……話は部屋で聞いてあげますから」  有無を言わさぬ物言いに、理人は嫌な予感しかしなかった。

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