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スティンガー ⑥
昼間あんなに晴れていたのに気が付けば分厚い雲に覆われて月も星も見えなくなっていた。寒気が急に流れ込んできたのか、瀬名の怒りに呼応するように風が強くなる。
そのせいで、イルミネーションがざわめく様に揺れて光を散らし、瀬名と理人を幻想的に照らし出した。
それはどこか神秘的で、美しくもありながら酷く禍々しくもあった。
――正直言って気まずい……。
自分は何もやましい事をしていない筈なのに、何故こんな事になってしまうんだ。
先ほどから腕を強く掴んで離さない瀬名から逃れる術も思いつかず、黙って瀬名について行くしかない状況に理人はため息を吐く。
家に戻るまでの間、互いに一言も口を利かなかった。
ただ、ひたすらに痛いくらいの力で掴まれ、引っ張られる。
――俺は何の罪で裁かれるんだろうな。
ぼんやりと考えていると自宅に辿り着いた。玄関に入り、瀬名が扉を閉めるのとほぼ同時に乱暴にジャケットを脱がされ、引きちぎらんばかりの勢いでシャツを剥かれひやりとした空気に肌が粟立つ。
「ちょっと待て!……瀬名っ!!」
いきなり脱がされ慌てふためいたものの、次の瞬間、唇を奪われて言葉が途切れた。そのまま舌を絡め取られ、口腔内を貪るように蹂躙される。
「ん……っふ……」
苦しい。呼吸が出来なくて頭がくらくらする。やっと解放された時には身体中が熱を帯びていて、心臓がバクバクと音を立てて煩かった。
「……理人さん、浮気は許しませんよ」
耳元で囁かれたと思ったら、今度は首筋に噛みつかれて、鋭い痛みが走った。
「痛っ、ちょ……まて……っ」
必死に押し退けようとするが、びくともしない。瀬名は容赦なく理人の身体を弄り始めた。
「ねぇ、今更言い逃れしようとしても無駄ですから」
そう言うと、逃げようとした足を払われて、床に身体を激しく打ち付けた。
「おいっ、てめっ! 話を……っ」
「今は聞きたくないです」
「……くっ」
抑えつけるように、瀬名が身体の上に馬乗りになってきた。完全にマウントを取られた状態になって理人は身動きが取れなくなる。
瀬名は無表情のまま、ネクタイを外した。そのままワイシャツのボタンをゆっくりと外していく。
露わになった胸板に掌を滑らせると、長い指先が胸の飾りに触れた。そのまま押したり摘まんだりされるとゾクリとする感覚が全身を駆け抜け、身体が跳ね上がる。
「っ、瀬名……止めろ……」
「嫌だと言ったら?」
「お前なぁ……ッ、人の話を少しは聞けっ」
「……聞いてあげますよ。後でたっぷりと……ね」
スゥっと瀬名の目が細められた。瞳に映る冷酷な色が濃度を増し、理人は一瞬呼吸をするのを躊躇った。本能が危険だと告げている気がする。
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