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ジプシー ④

 悶々とした気分で家に戻り、風呂に入ってさっぱりした後、上半身裸のまま一服しようとソファに座った。  ローテーブルの引き出しに常備してあるタバコとライターを探っていると、掴んだのは自分のではなく瀬名が愛飲している銘柄の箱だった。 「……チッ」  無意識にそれを手に取ってしまった自分に舌打ちをする。  手に持ったままそれをじっと見つめ、一本取り出すと口に咥えて火をつけた。いつも自分が吸っているものより重い為、少し吸い込んだだけで喉の奥がひりつく。  むせ込みながらもゆっくりと煙を吐き出すと、瀬名の匂いがして何故だか妙にムラッとしてくる。  酒を少々飲みすぎたせいもあるだろうが、ただでさえ欲求不満気味な上に、最近瀬名ともご無沙汰だったから余計にそういう思考になってしまうのかもしれない。一度意識してしまうと、止まらなかった。  気が付けば下半身に手を伸ばしていた。瀬名の煙草を吸いながら、下着の中に手を入れて軽く擦ってやると、直ぐにそれは熱を持ち硬く張り詰めていく。 「っ……ん…っふ……っ」  先端から滲み出た体液を塗りつけ、滑りが良くなったのを利用して上下に扱き上げると、堪らず鼻から甘い声が漏れた。 『理人さん……こんな明るいリビングで股開いてなにやってるんですか? ……いやらしいなぁ』  いつの間にか妄想の中の瀬名が自分を責めるような冷ややかな視線と言葉をを投げかけて来る。  それがまた理人の興奮を煽り、右手の動きが激しさを増していく。 「ん……っ、ぁ……は……っ」  ぐちゅぐちゅと湿った音が響き、理人は耳まで真っ赤にしながら声を押し殺して快感に耐えた。  どうしよう、気持ちがいい。瀬名の煙草をふかすたびに、背徳感と羞恥心が綯交ぜになって、どうしようもなく体がどんどん昂ぶっていく。  理人は目を閉じ、せり上がってくる射精感に身を委ねようとした――が、どうしてもあと一歩というところで物足りなさを感じてしまい、達することができなかった。それどころか体の奥が疼いて仕方がない。  奥で得る快感が堪らなく欲しくなって、つい腰を揺らしてしまう。  息を吸い込む度に煙草の煙がここにいない男のことを思い出させ、ますます会いたくなってくる。 「っ……はぁ……、クソッ……」  もう駄目だ。やっぱり我慢できそうにない。理人ははぁ、と熱い吐息を洩らすと短くなってしまった煙草を灰皿に押し付けて、寝室へと向かった。ベッドの下にある引き出しからバイブを取り出してローションを垂らし下着を脱いでその辺に放り投げた。自立式のソレをベッドの上に置くとゆっくりと位置を合わせて腰を落としていく。 「……ん……っ」  つぷりと音を立てて中に入ってくる異物に体がぴくんと跳ねた。根元まで埋め込んだそれをゆっくりと出し入れして、ベッドヘッドに体を預けると自分の重みでさらにバイブが深く押し込まれた。 「……っ」  胸の飾りを指で捏ねながらリモコンのスイッチを入れると、途端に体内で振動し始める。 「あ……んん……っ」  無機質なそれに前立腺を刺激され、たまらず理人は唇を噛んだ。無意識に腰を揺らして、良いところに押し付けようとする。 「あっ、んん……ふ……ぅ……っ」  しかし、どれだけ動かしても足りない。あの太くて硬いもので内壁を思い切り突かれたかった。焦らすような言葉や態度で意地悪をして、でも最後には優しく抱きしめてキスをしながら激しく奥を突いて欲しい。  想像するだけでゾクゾクと背中に快感が走り、陰茎からはだらだらと先走りが溢れてくる。 「瀬……名……ん……っ、く……ぁあ……っ」  もっと、もっと……。 「ん……は……っ、ぁあっイく……っ」  頭の中はそれだけになり、リモコンのスイッチを強にする。途端に中で蠢く振動が大きくなって理人の体内を容赦なく攻め立てた。 「あ……や……っ、ああああ―――!」  ビクビクと体を震わせながら、理人は精を放った。白濁の飛沫が腹部に飛び散る。 「ハァ……はぁ……っ」  絶頂の余韻に浸りながらリモコンを切り、呼吸を整えていると次第に頭も冷えてきて、今自分は何をやっていたんだろう、と我に返る。 「…………はぁ……くそっ、何やってるんだ、俺は……」  賢者タイムに自己嫌悪に陥るも、体の熱は収まる気配を見せない。 (ナオミたちが可笑しなことを言い出すからだ!)   きっとそうだ。そうに違いない! アイツらが可笑しなことを言い出したから、つい意識してしまっただけだ。  理人は忌々しげに舌打ちすると、バイブをずるりと引き抜きベッドにぐったりと横になった。  そして、今更ながらふと思う。  瀬名は今頃、何をしているのだろうか。  こんな玩具なんかじゃなくて、瀬名のモノでめちゃくちゃに犯されたい。あいつで俺の中を満たして欲しい。  そんな欲望ばかりが膨れ上がっていく。 「……馬鹿か、俺は……」   ひやりとした枕に顔を埋め、自嘲気味に呟きその声は静かな室内に虚しく響いた。

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