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ジプシー ⑤

 月曜日、浮かない気分で出社すると受付嬢と楽し気に談笑する瀬名の姿が目に飛び込んできた。 「――っ」  先日オカズにしてしまった気まずさと、また違う女と話していることへの苛立ちから思わず顔を逸らし、足早にエレベーターへと乗り込んだ。  自分は一体、何をしているのだろうか? 完全に悪循環だとわかっていても、瀬名をまともに見ることすらできない。  このままではいけない。でも、どうしたらいいのかなんて、自分ではわからない。取り敢えず平常心を保たないと、他の部下たちに怪しまれてしまう。  気を取り直して、ざわつく心を落ち着かせるように深呼吸を一つすると、ゆっくりとオフィスのドアを開いた。 「おはようございます。部長」 「あぁ」  オフィスを見渡すと、既に何人かの社員が出勤していた。係長は出社しているものの相変わらず浮かない顔をしている。声を掛けた方がいいだろうか? 一瞬、そんな考えも頭を過ったが面倒なのでそっとしておくことにした。  自分のデスクに座り、パソコンを立ち上げる。メールをチェックしそれぞれに返信を打ち込んで行くと、上司である岩隈からメッセージが入っていることに気が付いた。  内容は、大阪の支社へ赴き現状の把握と、新しい商品に対する情報の共有、それとシステムの構築の為に誰か社員の一人を向かわせて欲しいとのことだった。  人選は全て一任すると言う一文がご丁寧に添えられている。  ――この年末のくそ忙しい時期に出張かよ……。  しかも、明日から一週間程度なんてそんなの、誰も行きたくないに決まっている。  内心毒づいて、理人はフロア全体を見渡した。 係長に行かせてもいいが、頼りなさ過ぎる上に最近は上の空でいることの方が多い為却下。仕事の効率や、プレゼンの巧さ、商品に対する理解度で言ったら萩原か瀬名だが……生憎萩原は現在新婚旅行中で居ない。 と、なると瀬名か……。 「……ぅ~ん……」  自分が行ってもいいのだが、生憎課長の仕事まで兼任している為、時間的に余裕がない。 「ふふっ、うんうん唸って……便秘ですか?」 「あ? 違うに決まって……ッ」  突然聞こえてきた声に振り向くと、そこに立っていたのは瀬名だった。いつの間に近づいていたのか、全く気が付かなかった。  顔を見て昨夜の自分の痴態を思い出し、つい視線をぎこちなく逸らしてしまった。  そんな事をすれば、何かあったと言っているようなものじゃないか。 「……っ」  出張の件を打診しなければいけないのに、言葉が上手く出て来ずに完全に作業する手も止まる。  何かおかしいと察した瀬名が、パソコンの画面を覗き込むのが気配で分かった。

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