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ジプシー ⑥
「へぇ、出張ですか……しかも一週間」
「……」
「誰に行かせようか迷っていたんですか?」
「あぁ……」
理人は動揺を隠すように小さく息を吐き、瀬名と向き合った。
「こんな時期の出張だし、おまけに急だから皆嫌がるんじゃないかと思ってだな……」
「僕、行ってもいいですよ」
意外な答えだった。絶対に文句を言うと思っていたのに。
瀬名は普段通りの表情を浮かべて、さらりと言ってのけた。
まさかこんなにあっさり承諾されるとは思っていなかった理人は戸惑いを隠せない。
自分から言い出したことなのに、その返事を聞くと何故だか複雑な気持ちになる。
「丁度、今抱えていた案件が全部一区切りつきそうだったんです。それに――どうせ、後一週間は理人さんに触れられないから……」
最後の方は耳元で甘く囁かれ、ドキリと心臓が跳ねた。後一週間、我慢できる自信なかったから丁度いいです。
と、悪戯っぽい笑みを浮かべながら瀬名が言う。
それはつまり、この一週間手を出してこなかったのは……この間理人の言った禁止令を馬鹿正直に守ってくれていたという事だろうか。
もしかして、金曜日もさっさと帰ってしまったのは手を出さないようにする為? いやいや、まさかそんな――。
理人は都合の良い想像をしそうになる自分を諌めた。
――あんなもの、反故にしてくれたって良かったのに……。
うっかり口を突いて出そうになった言葉をグッと呑み込んで、理人は咳ばらいを一つすると瀬名から視線を逸らした。
「……詳しい資料はお前のPCに送っているから後で確認しておいてくれ」
「わかりました」
瀬名はそれだけ言って自分の席に戻って行った。
自分はなんて馬鹿だったんだろう。瀬名のことを信じ切れていなかったのは自分も同じじゃないか。理人は自責の念に駆られながらも何処かホッとしていた。
最近、女性と楽しそうに話をしている所ばかりが目に付いて、疑心暗鬼になっていた部分が強かった。
もう、自分には飽きたのだと――。それが杞憂だったとわかって安堵の息を吐く。
理人は緩みそうになる頬を必死で引き締めながら、瀬名に出張の詳細を書いたファイルを転送し、残りの作業を片付ける為にキーボードを叩き始めた。
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