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ジプシー⑧

「……すみません、少しがっつきました……僕、帰りますね」 「あっ、ち、違……ッ」  明らかに動揺して立ち去ろうとする瀬名の腕を慌てて立ち上がり掴んだ。ゆっくりと瀬名がこちらを振り返る。 「理人、さん?」 「違くて……その、い、嫌だったわけでは……」  自分は一体なにを言おうとしているんだろうか。俯いてもごもごと口籠っていると瀬名がはぁ、と盛大な溜息を吐いた。 「……あー、も~……そんな顔して……」  突然、瀬名が呟いたかと思ったらいきなり抱きしめて来た。戸惑う間もなく顎を掴まれ半ば強引に唇を塞がれた。咄嵯に顔を背けようとしたが、それを許さないとばかりに両手で頭を押さえつけられて身動きが取れない。  そのまま舌先で唇をこじ開けられる。  熱い塊が侵入してくる感覚にゾクゾクとした快感が走った。久しぶりの濃厚なキスに体中の血液が沸騰しそうになる。 「ん……ぅ……ぁ……」  口腔内をくまなく蹂躙され、理人は無意識のうちに瀬名に首に腕を回ししがみ付くように抱き着いていた。自ら瀬名の唇を求めた。すると、瀬名もそれに応える様に激しく求めてくる。  お互いの荒々しい呼吸と厭らしい水音がオフィス内に響き渡る。  此処はオフィスで、もしかしたら誰かまだ残っているかもしれないのに……理性とは裏腹に体は勝手に瀬名の熱を求めて疼いていた。  もっと欲しい、もっと……もっと。理人は夢中で瀬名を求め続けた。  どれくらいの時間そうしていたのか、やがて瀬名の方からそっと唇を離した。互いの唾液が糸を引きながらプツンと切れる。瀬名はそれを指で絡め取ると、名残惜し気にぺろりと舐め上げた。 「……はぁ、堪らないな……」  瀬名はそのまま理人の肩に顔を埋めると、ぎゅっと強く抱きしめてきた。その仕草が可愛らしくて愛おしくて、理人も応えるように背中に手を回した。 「……もう我慢できそうにない」 「……え?」 「今日、泊まりに行ってもいいですか?」  耳元で囁かれる瀬名の声は低く掠れていて、いつもの冷静さなど微塵もない欲情に潤んだ瞳がじっと理人を見つめていた。その目はまるで獲物を狙う肉食獣のようなギラついた光を放っている。 「……だめだつっても、聞く耳なんて持たねぇだろうが」  素直に同意するのはなんだか癪だったので、つい憎まれ口を叩いてしまう。 「あはは、バレました? もし、ダメって言ったら今すぐに此処で犯しちゃいますけど」  瀬名は楽しそうに笑うと、理人の体をくるりと回転させた。そして、背後から耳元で囁く。 「今、凄くしたい気分なんです。……あなたと――」  その言葉が耳に届いた瞬間、腰から砕けるような甘い痺れが全身を駆け抜けた。  瀬名は自分のどこが好きなのか、未だに理解できない。 それでも、相手にこんな風に求められるのは悪い気がしないのも事実だ。だから――。 「……こんな所で犯されたら堪んねぇからな……少し、待ってろ」  理人は心を落ち着けるために溜息を吐くと、机の上を片付け、パソコンの電源を落とした。

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