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ジプシー ⑨

「大丈夫ですか、理人さん」  火照った身体をベッドに横たえていると、瀬名が水と煙草を持って戻って来た。 「……だるい」 「ハハッ、ですよね。水、飲めそうですか?」 「あぁ」  差し出された水をひったくるようにして奪うとゴクリと一口飲み込んだ。良く冷えた水が喉を通っていくのが心地良い。渇きを癒すと、一気に脱力し再び枕に顔を埋めた。 「……たく、がっつきすぎなんだよお前っ」 「すみません、久々に理人さんを抱けるって思ったらテンション上がっちゃって」  理人は恨めし気な視線を向けるが、瀬名はしれっと笑って受け流している。  瀬名はベッドの端に座ると理人に覆いかぶさり、乱れた髪を優しく撫でた。 「でも、理人さんだって途中からノリノリだったじゃないですか。もっと、もっとって強請って自分から腰振って……」 「や、やめろ! 思い出させるんじゃねぇっ」  理人は羞恥に頬を染めて叫んだ。確かに、最中の事は朧げにしか覚えていないが、とんでもない事を言っていたような記憶はある。 「まぁ、可愛い姿が見れて良かったです。お陰で明日からの出張も頑張れそうです」 「っ」  瀬名は理人の前髪を分け額にキスを落とすと、満足げに微笑んだ。 「……明日、早いんだろ? もう寝ろよ」 「……まだ、寝たくないです。もう少しだけ理人さんを充電させてください」  瀬名は甘えるように言って、理人の胸に顔を埋めて擦り寄って来る。 「……たく、ガキみたいな事言ってんじゃねぇよ。ばか……」  呆れた声で言いながら、理人は瀬名の柔らかい髪をゆっくりと撫でた。サラリとした手触りが気持ち良くて、いつまでも触れていたくなる。  結局、瀬名の押しに負けてしまった形だが、こうやって甘えて来られるのは嫌いではない。むしろ、自分にしか見せない姿だと思うと優越感すら感じる。  しかし、それに絆されている自分もいて、少し悔しいような複雑な心境でもあった。  瀬名は理人の手に自らの手を重ねると、幸せそうな表情で瞼を閉じた。そんな姿を見ていると、理人の胸の奥が温かく満たされていく。  自分にもこんな感覚があるなんて知らなかった。  それが、ナオミたちの言う恋なのかどうかなんてまだわからないけれど――。  理人は、瀬名の穏やかな寝顔を見ながらそっと笑みを浮かべる。  今夜はゆっくり眠れそうだ。瀬名の体温を感じながら、理人は静かに目を閉じ、瀬名の手を握り返した。

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