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ライラ ②

 翌朝、出社すると岩隈の噂はおしゃべり好きな女子達の手によって社内全体にまで広がっていた。  何処へ行ってもその話題で持ちきりで、少しばかりうんざりする。  そんな中、理人がいつものように自分のデスクで仕事をしていると、朝倉がおずおずと近付いてきた。  何か用があるのならさっさと言えばいいのに、一向に話し出す気配が無い。一体、何だと言うんだろうか? 流石に苛立ちが募り始め、理人は椅子を回転させて朝倉に向き直るとギロリと睨みつけた。 「何か?」  自分のデスクの前で黙ったまま突っ立っている男に苛立ちを感じ尋ねると、朝倉はびくりと肩を震わせて気まずそうな表情で口を開く。 「あの、部長に少しお話があるのですが……」 「ここでは話せない内容なのか?」 「……はい」 「……」  一体コイツは何の話があると言うのだろうか? 不審に思いつつ視線を上げると、目が合った瞬間に怯えるような表情を浮かべてサッと目を逸らされた。  ……このままでは埒が明かない。理人は小さく息を吐くと、立ち上がった。 「……わかった。……行くぞ」 「えっ、あっ……」  有無を言わさず朝倉の腕を掴むと、そのままエレベーターの方へと向かった。年齢的には自分の方が10以上も年下ではあるが、立場上では自分が上司だ。  時間の無駄だと言わんばかりの態度で、エレベーターに乗り込み、最上階へ向かうボタンを押した。  少しの時間も惜しいほど忙しいのに一体何の用があると言うのだろうか?  エレベーターの中で切り出してくるかと思ったのだが朝倉は無言で俯いたままだった。本当に気の利かない男だと理人は嘆息する。 「あの、部長……何処へ行くんですか?」 「……」  ようやく、口を開いたかと思えばこれだ。理人は答えず、エレベーターのパネルをじっと見つめる。上に向かってゆっくりと動き出したエレベーターは妙に静かで、なんとなく居心地が悪い。  理人は隣に立つ男をチラリと盗み見た。相変わらず何を考えているのか分からない能面のような顔だ。いつもなら目を見て話すのに、今日は何故か気不味そうに俯いている。  屋上に辿り着き重い扉を開くと、空はどんよりと薄暗く、分厚い雲で覆われていた。これから雪でも降るのだろうか?  肌を刺すような空気がピリピリと痛い。理人は辺りを見渡すと誰も居ない事を確認して、振り返った。  途端に朝倉がビクリと身体を強張らせる。 「で、話ってなんだ?」 「……じつは、その……確認してもらいたいものがありまして……」 「私に?」  いまいち要領を得ない話し方に、苛立ちが募る。理人はわざとらしく溜息を吐くと、面倒くさそうに朝倉を見た。 「そんなものはメールで送ってくれればいいだろう?」 「いえ、直接確認していただきたいんです。できれば、部長の目で……」 「はぁ? なんだそれ……」  スッと差し出された朝倉のスマホには薄暗いオフィスの写真が映し出されており、その中心には自分と瀬名が濃厚なキスをしている姿が映っていた。

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