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ライラ ③

 一瞬、思考回路が停止する。  それがつい先日撮影されたものであることは瞬時に分かった。偶然撮影されたものなのか、狙って撮ったものなのかは定かでないがこんなものを見せてどうするつもりなんだ?  動揺を隠すように、理人は静かに息を吐くと険しい表情で朝倉の顔を真っ直ぐに見据えた。 「……それで? お前はコレを俺に見せてどうしたいんだ?」  理人の問いに朝倉は押し黙った。まるで理人を恐れているかのように、その視線は僅かに泳いでいる。  そして、絞り出すように言った。 「――僕は、部長が嫌いです……」 「ほぅ? だから?」  だから何だと言うんだろうか。  そんな事わざわざ言われるまでもなく知っている。入社当時から嫌われていることくらい自覚しているし、そもそも初対面の時からあまり好かれていないのはわかっていた。 「だから――……あなたに部長職を退いてもらいたい」 「あ?」  理人は眉間にシワを寄せると、鋭い視線で相手を睨みつけた。 「冗談にしては、笑えねぇな……」 「冗談なんかじゃありませんよ。だいたい、本来なら僕がそこに座るべきなんだ。なのにいきなり後から入社して来た分際であっという間に部長職に上り詰めやがって……」  恨みのこもった声色でそう告げられ、理人は心底くだらないと思った。  部長職に就けたのは、自分のたゆまぬ努力を周囲の人が理解し、評価してくれた結果だと思っている。  実際入社してからこの方、何処の課へ行っても成績は常にトップクラスで、色々な企画や大きなトラブルも自分の力で解決し、乗り越えて来た。任されたプロジェクトが功を奏し、会社に大きな利益をもたらした実績だって持っている。それら全てを上層部が認めてくれて、やっと今の地位に辿り着いたのだ。  それを、勤続年数が多いだけのお飾り係長にとやかく言われる筋合いはない。 「……ハッ、くだらねぇ。アンタ、自分の実力をわかっていないのか?」 「なっ……」  理人の嘲るように鼻で笑うと、朝倉は怒りに表情を歪ませる。 「……俺を今の立場に推薦してくれた岩隈専務もあんなザマだし、アンタがその写真をばら撒いて上層部に訴えれば確かに降格は免れないだろうな」 「そうだ。この写真さえあればアンタを引きずり下ろせる。 大体、最初から気に入らなかったんだ。仕事が出来るからって調子に乗りやがって……どうやって、上層部を取り込んだのかと思ってたら……だったとはね。気持ち悪い」 「…………」  まるで汚いものでも見るような蔑む視線を向けて吐き捨てるように言われ、思わず眉間に深い皺が寄った。   なんでコイツにそんな事を言われなくてはいけないのかと怒りが込み上げてくる。  

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