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ライラ ④
朝倉はどうやら、理人がお偉いさん達と枕して上り詰めたと思い込んでいるようだが全くのお門違いだ。
しかも、こんな写真程度で自分をどうこうできると思っている事自体が笑えて来る。
今まで自分が必死に努力して得た地位まで馬鹿にされたようで、腸が煮えくり返りそうになるのを必死に堪え、吐き捨てるように呟いた。
「……ほんっと、小せぇ男だな」
「な……っ!?」
「ふざけるな! 俺が一度でもてめぇに迷惑掛けたことがあったか? 別にてめぇになんて思われようが関係ねぇが努力を全否定されんのは気に入らねぇな。それに、この俺がたかがキス写で怯むとでも思ったのか? 折角牽制ネタ仕入れてくれたみたいだけど、残念だったな。俺はその位じゃ動じねぇんだよ」
それはハッタリだ。自分の隠していた性癖を公のもとに晒されるなんて考えただけでもゾッとする。だが、明らかな格下相手に自分の弱みを見せるわけにはいかない。
理人は精一杯の虚勢を張って朝倉を嘲笑った。そして同時に、いいアイディアが浮かびほくそ笑む。
「まぁ丁度いいや、俺もアンタの秘密知ってる。……岩隈がパパ活してる相手――……アンタの一人娘だろ」
「――……っ!」
胸倉を掴んで耳元で囁いてやると理人の言葉に朝倉の顔がみるみるうちに青ざめていく。
「な、んでそれを……」
今にも泣き出しそうな朝倉の顔に嗜虐心が疼き、理人はクスリと意地の悪い笑みを浮かべた。
理人は一歩近づくと朝倉の胸倉を掴み引き寄せる。そして、耳元に唇を寄せて低く囁いた。
「なぁ、取引しようじゃねぇか……。今すぐそこにあるデータ全て消せ。一つでも残してたり、それが流出するようなことがあれば……わかるよな?」
脅しを込めてそう言うと、朝倉は目を白黒させて怯えた表情を浮かべる。
どうやら、自分が脅される可能性など微塵も考えていなかったらしい。自分の娘が援助交際しているなんてバレてしまえば立場が悪くなるだろうし、その相手が渦中の専務であるなら尚更だ。
「し、証拠は……ッ」
「あ?」
「専務の相手が……ウチの娘だって証拠があるのか?」
「……あるぜ? 残念な事にな」
意味ありげに笑みを浮かべ、どうするんだと朝倉に迫る。全く怯まないどころか、鋭い眼光で見下ろしてくる理人に朝倉はゴクリと喉を鳴らした。
「……わ、わかった。データは全て消す。だから――……娘の事は誰にも言わないでくれ……っ」
「じゃぁ今すぐそのスマホを俺に寄越せ」
「――ッ」
「出来ねぇんだったら、交渉は不成立だ」
「く……ッ」
朝倉は悔しそうに歯噛みすると、理人に向けて震える手でスマホを差し出した。
にやりと笑いながらスマホを受け取ると、屋上からそれを思いっきりぶん投げてやった。
放物線を描いて飛んでいくスマホが曇天の中に吸い込まれていき、落下していく様を眺めていると背後で朝倉が息を呑むのがわかった。
振り返ると、彼は呆然と立ち尽くしたまま理人を見つめている。その顔には驚愕の表情が張り付いていた。
「――な……」
「あぁ、悪い。手が滑った。スマホが必要なら弁償してやるよ。いくらでも……な」
理人はニッコリと微笑むと、朝倉はそのまま力無くその場に崩れ落ちる。
「今度から、喧嘩売るならもうちょっと相手を考えて売るんだな」
吐き捨てるようにそう言って、理人は屋上を後にした。どす黒いオーラを纏い恨みがましい視線を送って来る相手の事は敢えて気付かない振りをして、オフィスにもどった。
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