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ライラ ⑥
全く、こうなら部屋で一人で飲んでいた方がまだよかったかもしれない。
ふぅと息を吐いて、椅子に凭れながらウィスキーに口を付けていると、視界の端に見覚えのある男が入ってきた。
いかにもチャラそうな風貌のその男はキョロキョロと店内を見回していたが、理人を見つけると真っ直ぐこちらに向かって歩いてくる。
「あ、いたいた……。遅くなってすみません。ちょっと例のモノを探すのに手間取ってしまって」
「気にするな……適当に飲んでいただけだから」
「ハハッ、もしかして結構飲んじゃってたりします?」
苦笑しながら、理人の隣に腰掛けたのは以前、ちょっとしたツテで知り合った探偵の東雲だった。
彼は手に持っていた紙袋をテーブルに置くと、理人に中を見せるようにそれを開く。
「はい、頼まれてた物」
「あぁ、助かる」
理人は中身を覗き込むと、そこには写真が数枚入っていた。その中の一枚を手に取り、眺める。
以前、岩隈と朝倉がホテルに入っていくのを目撃した際に、東雲と遭遇したことがあったのを思い出し、もしかしたら写真の一枚でも持っていないだろうかと祈るような気持で今日のうちに連絡を入れていたのだ。
あの時の東雲と出会うタイミングが偶然にしては出来すぎているような気がして、まさかとは思っていたのだが――。
「よく撮れてるでしょ?」
「……問題ない。まさかお前が岩隈専務の浮気調査の依頼を受けていたとは……だが、お陰で助かった」
「……クライアント以外への写真の流出って本当はタブーなんですからね! 他でもない鬼塚さんだから横流ししましたけど……」
「そうか、それは……悪かったな」
「いえ……まぁ、報酬は前払いでもらっちゃいましたし……それにしても、こんなの一体どうするつもりなんです?」
「ちょっと、色々あって……。まぁ保険みたいなもんだ」
「保険……ですか?」
理人は曖昧に微笑むだけで、詳しいことは話さなかった。東雲は釈然としない表情をしていたが、それ以上は追及してくることは無く、ビールを注文すると一気飲みするように喉に流した。
「あぁ、そうそう……もう一つの件ですが……もう少し待っててくださいね。もしかしたら、ヤバいのが絡んでるかもしれないんで」
「ヤバイもの?」
理人は眉根を寄せた。すると、東雲はあたりをきょろきょろと見回して、内緒話でもするように声を潜めた。
「まぁ、俗にいうソッチ系の人と関りがあるかもしれないって事です」
「――な……っ」
東雲の言葉に思わず絶句する。課長の一言がどうにも引っかかって、事故の件を調べて貰っていたのだが、まさかそこに反社が関わっているとは想像もしていなかった。
という事はやはり、課長はただのひき逃げではなく、誰かに狙われていた可能性が出て来る……。 課長は、朝倉に気を付けろと言っていた。
と、言うことはまさか……?
「あー、鬼塚さん。まだ、可能性があるってだけの話で、そうと決まったわけじゃないですから、ね?」
黙り込んでしまった理人を気遣うように、すかさず東雲がフォローを入れる。
確かにそうだ。可能性があると言うだけで別にそうだと決まったわけじゃない。
「すまない。もし、また何かわかったら連絡してくれ」
「はぁい、了解♪ ……ところで、鬼塚サン……オレ、今回かなりの無茶ぶりに答えてあげたじゃないっすか……それなりの対価が欲しいなぁって……」
するりと、東雲の手が理人の太腿を撫でた。理人はぴくりと身体を震わせると、溜息を零す。
まったく……こういう所がなければいい男なのだけれど……。理人は東雲の手をぺしりと叩き落とすと、グラスに残ったウィスキーを飲み干した。
「ちょっと、酷くない? オレ……鬼塚サンのえっろい腰遣いが忘れられなくて……」
腰をグイッと引き寄せられ、耳元に息を吹きかけるようにして囁かれ、理人は眉間に手を当てて唸った。
「ねぇ、もう一回ヤらせてよ」
「――はぁ……、俺はそういう気分じゃ……」
「あれ? アルコール足りない? 前は自分から跨って来たのに……もっと飲みますか?」
理人のグラスにウィスキーを注ごうとする東雲の手首を掴み、制止させる。そして、呆れたように嘆息した。
「取敢えず、過去の事は忘れろ! 俺はもう、若くないし……こう言うことはしないと決めたんだ」
「……え……っ!?」
その言葉を聞いた瞬間、東雲の目がこれでもかと言わんばかりに見開かれ、信じられないと言った表情で固まった。
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