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ライラ ⑦
「鬼塚サン、なんか変なもんでも食った?」
「食ってねぇ」
「……じ、じゃぁ、何処か病気とか?」
「俺は至って健康体だっ!」
全くもって失礼な奴だ。理人がムッとした表情で返すと、信じられないとばかりに首を振る。
「……うっそだぁ……。だって、初めて会った時、超気持ち良さそうにアンアン喘ぎまくってたじゃん。自分から腰振ってさ……オレの事誘ってきたのに」
理人は、その言葉を聞いて頭痛がしてきた。本当にコイツは、デリカシーの欠片もない。
「む、昔の事だろ……」
「昔って、まだ半年も経ってないっしょ?」
「……」
理人は何も言わずに東雲を睨み付けた。すると、二人のやり取りを見ていたナオミが横からひょっこりと顔を出す。
「うふふ……残念だったわね。東雲君~……理人にはね、今夢中になってる人がいるのよ」
「……おいッ」
「あら? 事実でしょ?」
「……ッ」
ナオミは理人の反応を見て満足げに笑みを浮かべると、空になった理人のグラスにウィスキーを注いだ。
反論しようと口を開きかけたが、結局何も言えなかった。
「へぇ、それは……意外ですね。あ、もしかして……瀬名って人の事かな? 鬼塚サンが調べて欲しいって依頼しに来るなんて珍しいなぁって思ってたんすよねぇ」
「な……ってめっ」
「ふぅん、理人ってばちゃっかり身辺調査なんて依頼してたの……へぇ~」
「……ッ」
東雲は、探偵としての腕前は大したものだが、いかんせん酒が入ると口が軽くなるのが難点だ。
ナオミはにやにやと笑みを浮かべながら理人を見下ろし、楽しそうに肩を揺らしている。コイツにだけは聞かれたくなかった。
「まぁいいや。今度、その彼氏さんに会わせて下さいよ。理人さん一人占めしてる羨ましい男をオレがジャッジしてやるから!」
「いやだ」
間髪入れずに答えると、東雲は少しだけ驚いたように目を見開いた。
そして、次の瞬間吹き出すよう笑いだした。
「ぷっ……アハハッ! 何その即答っぷり! やべっ、ウケる! あはははっ」
何がおかしいんだか……。理人が冷めた視線を送ると、それが更にツボに入ったらしく、ひぃひぃ言いながら腹を抱えている。
「もぉ、駄目だ……、あの鬼塚さんが、独占欲丸出しなんてさ……、面白過ぎるでしょ……ぷ、くくっ」
「ね、可愛いでしょ~?」
「~~ッ、俺は帰るっ!」
何とも言えない居心地の悪さを感じて席を立つと、そのまま出口へと向かう。
「あっ! ちょっ、鬼塚さん!?」
「あらあら、ガキねぇ~……」
背後から東雲の声が聞こえたが、適当に金だけ置いて無視して店を出た。
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