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ライラ ⑧
今日はなんだか色々あり過ぎてどっと疲れた。風呂上り、まだ濡れた髪にタオルを掛けたままベッドに寝転がると、理人は深く溜息を吐いた。
うだつの上がらないダメなオヤジだとばかり思っていた朝倉から向けられた憎悪に満ちた目と言葉が、今も頭から離れない。
しかも、ただのひき逃げだと思っていた課長の事故にも、もしかしたら裏があるかもしれないという可能性が出てきた。
課長は朝倉に気を付けろと言っていたが、果たしてこれは偶然なのか……?
朝倉が反社と繋がっている可能性があるとすると、今回の事故も朝倉が起こしたと考えるのが妥当だろう。
しかし、何のために朝倉はそんなことを? 自分が憎まれているのはまだ理解できる。だが、温厚で裏表がなく、誰からも信頼されている課長を憎む理由が見当たらない。
もし仮に恨みがあったとしても……事故に見せかけて殺そうとするようなリスクを冒すだろうか?
理人は、そこまで考えてから頭を横に振った。
まだ、朝倉が事件に関わっていると決まったわけじゃない。今朝の件があったから余計に穿った見方をしてしまっているだけかもしれない。
とにかく、もう少し情報を集めなければ……。
1人でいると、どうしても悪い方へと思考が引っ張られてしまう。
――こんな時、瀬名が側にいてくれたら……。
いや、朝倉のあんな言葉、アイツには聞かせたくない。嫌な思いをするのは自分一人で充分だ……。
だからと言って、瀬名との関係を断ち切れるかと聞かれれば答えはノーだ。
瀬名と離れることは……今の理人にとって自分の半身を切り捨てるようなものだった。
たった数日話していないだけで、こんなにも心が寂しいと感じてしまう。
――今、瀬名はどうしているのだろうか? 理人は無意識のうちにスマートフォンを手に取って電話帳を開いていた。発信ボタンを押せば、すぐにでも瀬名に繋がってしまう。
……いや、でも……何を話したらいいのかわからない。それに、もう眠っているかもしれない。
スマホを睨み付けながら悶々としていると、突然手元のスマホが震えた。理人は驚いて取り落としそうになるのを何とか堪える。画面を見ると、そこには瀬名と言う二文字。
「……っ」
理人は一瞬躊躇ったが、意を決して通話ボタンをタップすると耳に押し当てた。
「あっ、よかった、起きてた。お疲れ様です理人さん」
夜中だと言うのに爽やかな声が響いてくる。内心声が聞きたいと思っていた相手からの電話で心臓が高鳴った。しかし、それを悟られないように平静を取り繕って答える。
「チッ、何時だと思ってやがる」
「ハハッ、ご機嫌ナナメな感じですか? もしかして、寝てたの起こしちゃったかな?」
「別に……そんなんじゃねぇよ。で? 何の用だこんな時間に」
「いや、なんとなく声が聞きたかっただけです」
「…っ……」
どうしてこいつは、こう言うことをさらりと言えてしまうのだろう。
「馬鹿かお前は……たった4日だろうが」
「ハハッ、そうだけど……でも、声だけじゃやっぱり物足りないと言うか……そうだ、理人さんの寝室にパソコンありましたよね? スカイプ出来ませんか? 電話よりやっぱり……顔が見たい」
瀬名の率直な言葉に、鼓動が更に早くなった。頬が熱を帯びていくのがわかる。
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