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キール ④

「……もう、開けてもいいですよ」 「……たく、なんなんだ……」  そっと目を開ければ左手を掴まれ目前に突き出される。そこにはシンプルなデザインのシルバーリングがはめられていた。 「……これ、は……?」 「クリスマスプレゼントです。……遅くなりましたけど受け取って貰えますか? 」  瀬名の言葉に、理人は一瞬思考を停止させ、意味を理解するとボッと火がでそうな勢いで赤面した。 「……っこんなの……プロポーズみたいじゃねぇか」 「僕はそのつもりですよ?」  シレッとそう言われて、二の句が継げなくなる。鯉みたいに口をパクパクさせている理人を尻目に瀬名は愛しそうに笑みを深めた。 「……お前、正気か? 10歳も年が離れてるんだぞ!?」 「知ってます」 「それに、男同士だし……」 「そんなの今の時代、関係ないでしょう?」 「……っ」  真っ直ぐな瞳に見つめられてしまえばそれ以上言い返す事が出来ず、理人は黙り込む。 「理人さんは……嫌?」  不安そうに尋ねられれば、首を横に振ることしか出来ない。嫌なわけがない。寧ろ嬉しくて堪らないくらいだ。けれど年の差がありすぎて正直どうして良いのか分からないと言うのが本音ではあるが。 「ちゃんとあなたの言葉で聞かせてください。――僕の事、どう思ってるんですか?」 「そ、それは――……」  自分の中の気持ちはもう、わかっている。だがそれを、臆面もなく言葉に出来るほど理人は器用ではない……。 「……っ……き、だ……」  決死の思いで紡いだ声は、情けない事に酷く掠れて蚊の鳴く様な音にしかならなかった。それでも何とか聞き取ろうとしてくれた瀬名が耳を寄せて来たため、羞恥で死にそうになる。 「……もう、一回」  真摯な眼差しを向けられ、その視線に促されるように震える唇を開く。 「……好き……だ」  いい終わると同時に腕を強く引かれ、唇が重なった。 「……ん……っ、……ふ、っ、ん……」  突然の口付けに戸惑う間もなく、熱い舌先が口腔内に侵入してきて息が上がる。歯列をなぞるようにして奥へと入り込んできた舌は逃げる理人のものを絡み取り、執拗に追いかけてきた。その感覚がまるで性感帯を刺激されているようで背筋にゾクッとした痺れが走る。 「……は………ん、む……っ」  次第に激しさを増していく口づけは、互いの唾液が混じり合い唇の端から溢れ出す。瀬名はそれを気にする素振りも見せず、角度を変えながら夢中で貪ってくる。いつの間にか理人も応える様に自ら舌を絡めていた。 「……ぁ……っ……瀬、名……っ待て……っ」 「待てませんっ」  息継ぎの合間に制止するも瀬名はそれを聞き入れようとはしない。呼吸すらままならない激しいキスに腰が砕けそうになって瀬名の胸にすがりつくと、彼はギュウッと力強く抱き締めてきた。 「っはぁ……ん、……ぅ、ぁ……っ」  酸素を求めてもがくも、容赦なく与えられる快楽に身を捩る事しかできない。 「――困ったな……今すぐ、貴方を抱きたい」 「ば、……馬鹿か、お前は……っ傷に触るだろうがっ」 「大丈夫、きっと理人さんを摂取したら治る気がしま「治るわけねぇだろクソがっ! 俺は万能薬じゃねぇぞコラ。大人しく寝てろ馬鹿っ!!」」  とんでもない発言をした瀬名の言葉を遮って怒鳴りつけベッドに押し付けた。いくら個室とは言えど病院内で何を言いだすんだコイツは。 「でも、この状態は流石に蛇の生殺しですよ……理人さんだってヤりたいでしょう?」 「……たく、てめぇの頭ん中はそればっかだな、クソがっ」 「そりゃあね。僕も健全な男子ですから」  瀬名はニッコリ笑って見せるが、目は全然笑っていない。これは下手に言いくるめるのは難しいと判断した理人は深い溜め息をつくと、ゆっくりと口を開いた。

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