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キール ⑦
理人は無意識のうちに瀬名に背を向け電話に出た。
『あ! 鬼塚さん、無事でした?』
「……何の話だ?」
開口一番、食い気味に話しかけられて若干引きながら問い返す。
緊迫した声色から、自分たちにとってあまり良くない内容なのだという事は察しがついた。
『詳しい事は会ってから話しますけど……以前言っていた件。繋がりが確定しました』
繋がり、とは朝倉と反社との関係の事だろうか。
『まぁ、向こうから接触して来たんですけどね。いきなり暗闇から襲いかかて来たから驚きましたよ。まぁ、返り討ちにしてやりましたけど……。どうやら、例の写真を撮ったオレを探してたみたいで』
「……そうか」
あの写真が流出して困るのは、岩隈と一緒に写真に収まっている娘、そしてその親である朝倉――。
うだつの上がらない出来の悪い男だと思っていたが、どうやら悪知恵だけは働くようだ。
『それで、鬼塚さんの近況も知りたいし、色々と渡したい資料もあるので近々お会いできませんか?』
「わかった、じゃぁ……」
待ち合わせ場所を指定して通話を終える。振り返ると瀬名とナオミ、湊までもが心配そうにこちらを見ていた。
「悪い、急用が出来た」
「アンタ。何かヤバイものに首を突っ込んでるんじゃないでしょうね?」
ナオミが理人の腕を掴み、険しい表情を浮かべる。
「違う、そう言うんじゃねぇから。ちょっとダチに会いに行くだけだ」
ナオミの腕をそっと外し、理人は瀬名へと向き直った。
「理人さん僕も行きます」
何かを察したらしい瀬名が真剣な眼差しを向けて来る。今回の件について、瀬名にはまだ何も説明をしていない。しかし、瀬名も薄々何かを感じ取っているようだった。
不安げな表情を浮べ、理人の服の裾を掴んでいる指先に力が篭る。
「ばーか。お前はまだ絶対安静だろうが」
「でも……」
「大丈夫だ。危ない事はしねぇし……本当にダチに会いに行くだけだから」
理人がそう言って笑って見せると、瀬名は一瞬躊躇ったが、渋々といった様子でようやく理人の袖を離した。
その頭をポンと撫でてやると瀬名は僅かに目を細める。まるで小動物のようなその仕草に胸がきゅんと高鳴った。こんなにも人を愛しいと思う感情が自分の中にある事に驚きつつ、理人は踵を返した。
「そんな心配しないの。大丈夫よ理人は……ある程度のチンピラ位なら瞬殺でやっつけちゃうわよ。――なんたって、高校では負けなしで強かったんだから!」
「へぇ、そんなに喧嘩強かったんですか」
「……おい! 出て行き辛ぇだろうがクソが!!」
ナオミが自分の黒歴史の暴露大会をしそうな気配に、理人はナオミをぎろりと睨み付ける。
「あら、まだいたの? 用事があるんでしょう?」
「……チッ。余計なことを瀬名に吹き込むなよ!!」
理人はそう言い捨てて病室を出ると、早足で歩き出す。その背中を、瀬名はじっと見つめていた――。
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