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act.8 ブルドック

  事態が動いたのは正月3が日を過ぎた頃。正月返上で調査を続けてくれていた東雲から「朝倉が例の男と明日接触するらしい」という情報が3人で共有しているグループに届いた。  この三が日の間に、間宮はひき逃げ事件を担当していた管轄と連絡を取り、片桐の事件と今回の事件の共通点、また現在わかっている情報の洗い出しなどを独自に進めていたようだ。それによると、朝倉が接触していると思われる男は、以前から問題行動が多かった組織の一員で過去にも何度か傷害やら窃盗などで警察のお世話になっている前科持ちだという。  どういう経緯で朝倉と知り合ったのかはわからないが、警察が掴んでいる情報を総合的に見ると、恐らく裏社会に通じているような輩に違いない。  朝倉は一体何がしたいのだろうか? わざわざそんな危険な奴と接触して何を企んでいる? なぜ、自分や東雲が狙われなければならないのだろうか。考えてもわからない事だらけだ。  このまま放置しておけば、近いうちに間違いなく面倒な事になるのは目に見えている。瀬名が退院するまでの間にどうにか出来るといいのだが――。 「全く、おれの貴重な正月休みが……なんでこんな浮気男の為なんかに費やさないといけないんだっ!」  ファミレスに入るなり、間宮はテーブルに突っ伏するとふてくされたように不満を吐露した。 「……てめぇ、まだそんな事言ってやがったのか」 「えー、なに? 鬼塚さん浮気してたんですか?」 「違う! なんか知らんがコイツが勝手に勘違いしてるだけだ!」  理人は不機嫌そうに眉間にシワを寄せ、ドリンクバーで入れたアイスコーヒーをストローでぐるぐるとかき混ぜた。 「勘違い、だと? クマ男とイケメン二人をとっかえひっかえしてたじゃないかっ! 人目も憚らずイチャイチャと」 「するか、アホ! 透は従兄弟だし、ただ単に話してただけだろうが! お前の頭の中じゃ、野郎と話しただけでホモになんのか?」  ぎろりと睨み付けてやると、間宮はグッと言葉に詰まらせた。何か言いたげに口をモゴモゴさせながら「だって、それは……」などと言い訳じみた言葉を漏らしている。  理人は溜息を吐くと、手に持っていたグラスを置きソファに深く座りなおした。 「大体、お前の変な妄想のお陰で、あの後大変だったんだからな!」  思い出すだけでも恥ずかしい瀬名との行為の数々が脳裏を過り、理人は顔を真っ赤にしながら眉間に深い溝を作った。 「あー、大吾……頭はいいけど思い込みが激しいからなぁ……」  理人と間宮のやり取りを見ていた東雲が、苦笑しながら呟く。恐らく、似たような事が以前にもあったのだろう。 「それって、警察官としてどうなんだよ……」  思い込みと決めつけで犯人扱いされたら堪らないと、理人は呆れたような顔で二人を見た。 「問題ない!」 「いや、あるだろう! 寧ろ問題ありまくりだっ! やっぱり馬鹿なんじゃないか!?」  得意げに言い切った間宮に、理人は思わず呆れた声を上げる。  やはりこの男は馬鹿に違いない。むしろ刑事として致命的な欠点だと思うのだが……。

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