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ブルドック ②
理人が頭を抱えていると、東雲が苦笑いを浮かべながら口を開いた。
「あはは……まぁまぁ、理人さん。そんなに目くじら立てないで下さいよ。ほんっと、思い込みは激しいですけど大吾は悪い奴じゃないんで。きっと、初恋の君に久しぶりに会えてテンションが上がってたんですよ」
「初恋の……なんだって?」
予想外の発言に理人は眉を顰めて聞き返すと、東雲は悪戯っぽく微笑んだ。
「コイツ、ずっと言ってたんですよ。忘れられない初恋の君がいるって……。男を磨いてそいつをいつか見返してやるんだって」
確かに以前、そんな事を言っていたような気もする。
努力の方向が間違っているような気がして仕方がないが、とりあえず今はそれは置いておく事にしよう。
「いやぁ、まさか初恋の君が鬼塚さんだとは思いませんでしたけどねぇ。鬼塚さんモテモテじゃないですか」
にっこりと笑う東雲に理人は胡乱げな眼差しを向けた。
「……あまり嬉しくはないがな」
理人にとっては正直迷惑な話題だ。
「っと、まぁほら、……雑談はこの位にして明日の対策を立てようじゃないか!」
流石に居た堪れなくなったのか、間宮はばつが悪そうな顔をして話を逸らすように仕切りなおした。
確かに今はこんな馬鹿な男の相手なんてしている場合ではない。理人も表情を引き締めると、気持ちを切り替えるように、姿勢を正して二人の方へと向き直る。
「まず、今回の作戦の目的は相手の会話を録音し、ひき逃げ事件の確認と裏付けを行う事。出来れば現行犯逮捕と行きたいところですが上手い具合に喋ってくれるか……」
「会合に利用すると思われるホテルは既に買収済みだ。集合時間と部屋は確認が取れている」
東雲の言葉を引き継ぐようにして、間宮が口を開く。
理人たちはそれに小さくうなずくと、真剣な眼差しで目の前に置かれたノートパソコンに視線を落とした。
パソコンには、先ほど間宮が言っていた、朝倉が利用しようとしているホテルのホームページが表示されている。
「会合に利用されている部屋には数台の超小型カメラと、盗聴器が既に仕掛けてある」
「……おい、一つ聞いてもいいか?」
「なんだ?」
「随分と大掛かりな事になってるが、大丈夫なのか?」
「問題ない。今回の対象者は朝倉ではなく、ひき逃げ事件を引き起こした男だ。上にも話は通してあるし、なによりこれは我々の任務だ。お前が気に病む必要はない」
理人の問いに、間宮ははっきりと答える。その目は真っ直ぐで迷いがなく、変な奴ではあるが、なんだかんだ言ってもやはりコイツはプロなのだと理人は素直に感心した。
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