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ホビーバーンズ ※瀬名視点

 理人は何故、何も話してくれないのだろう?  最後に言葉を交わした時、全力で否定された気がして瀬名は後を追うことが出来なかった。 店にやってきた来たあの二人組は明らかに何か知っている風だったのに。  どうして、自分だけ知らせて貰えないのか。朝倉が北海道に左遷になった事と関係がありそうだが、情報が少なすぎて何もわからない。 自分だけ何も知らされていないなんて。 なんだか一人だけ除け者にされたようで複雑な思いが込み上げてくる。  もしかしたら、ナオミの店にさっきの二人がまだいるかもしれない! そう思い立って、瀬名は慌ててきた道を戻った。 「ナオミさん、さっきの人達は?」  店に着くと、間宮たちの姿は何処にも見当たらず、瀬名はカウンターに居るナオミに慌てて詰め寄って訊ねた。 「あー、東雲君の事? あの二人ならついさっき帰っちゃったわよ。それより……、一人なの? 理人は?」 「……っ」  理人の名前を出され、瀬名はグッと言葉を詰まらせ、堪らず視線を落とす。 「僕が、余計な事を言ってしまったみたいで……怒らせてしまって……」  一体何がスイッチだったのか。自分はあの事件の真相が聞きたかっただけなのに……。何故、理人は隠すのだろうか? そんなに自分の事が信じられないのかと胸が締め付けられるようで辛い。 「なるほど、理人の悪い癖ね」  そう言って、席に座るよう促され、カウンターに腰掛けるとナオミがウイスキーとベルモットをステアしてレモンピールを添えた紅茶色のカクテルをそっと差し出してきた。 「……これは?」 「ホビーバーンズって言うお酒でね、口下手な理人みたいだなって思って。ちなみに、カクテル言葉は「言葉が見つからない」よ」  にっこりと微笑まれ、瀬名はお礼を言ってそれを口に含んだ。甘酸っぱい風味が広がっていく。  ナオミはグラスを拭く手を休めないまま続けた。 「理人って昔っからああなのよねぇ……。何かあっても全部一人で抱え込んじゃって、周りには何一つ言わないの」 「……僕は、頼りにならないってことでしょうか」 「ううん、逆よ。瀬名君って理人のタイプにドストライクだから、きっと貴方に嫌われたくないんでしょうね」 「……はい?」  ぽかんとした顔で瀬名はナオミの顔を見た。  まさか、今の流れで理人が自分に好意を抱いているような発言が出るとは思わなかったからだ。 「嫌いになんて……なるわけないのに……」 「基本的に不器用なのよ。人に頼ることを知らないし、利用できるものはソレが例え親兄弟であっても徹底的に利用する。理人にはそう言う冷たい一面があるから」  まるで氷のようだと、ナオミは言った。  本当にそうだろうか? 確かにぶっきらぼうな面あるが、周りが言うような冷たさは自分にはあまり感じなかった。 「でもね、今回ビックリした事があって。突然夜中に電話かけて来たかと思ったら、瀬名君が死んじゃうかも!って言うじゃない? 今まであんな風に取り乱してる理人の声聞いたことなかったから……でも、なんだかんだで頼ってくれたんだって思ったら嬉しくなっちゃって」 「理人さんが?」 「そう。だから瀬名君はもっと自信持っていいわ。理人は間違いなく貴方の事を大切に思ってる。だからこそ、貴方を傷つけたくなくて、簡単には言えない何かがあるんじゃないかしら?」 「言えない……何か……」  瀬名は小さく呟いてグラスに残っていたカクテルを飲み干した。きついアルコールが喉の奥へと流れていく。  理人はもしかすると、あの事故について何か重大な真相を知っていて、自分を傷付けないようにと考えて黙っているのでは無いだろうか。  だとしたら……。  瀬名は立ち上がり、鞄を手に取るとナオミに頭を下げて慌てて店を後にした。

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