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ムーランルージュ ⑮

「なん……で?」  寸での所で刺激を止められて堪らず一臣を見た。目が合うとしてやったりとばかりに、にやりと笑う。 「何? イきたかったのか?」 「チッ、クソ……っ」 「アンタ、すっげー敏感だな。こんなんなら薬なんて必要なかったのかもな。気に入った」  耳に息を吹きかけるように低い声で囁き、舌で耳を蹂躙しながら、尖りだした胸の飾りを押したり潰したりして熱い指先が弄ぶ。二点を同時に攻められるとどうしようもなく腰が甘く疼いてしまう。 「ん、ぁ……ふ、んん……」  いつしか抵抗が少なくなり快楽に従順な姿勢を見せ始めた理人を見て一臣が意地悪く笑う。 「なぁ、どうしたい? 瀬名には黙っておいてやるよ」  首筋に舌を這わせながら、そう訊ねられ、驚いて目を見開いた。 「な、何を……」 「ハハ、俺が気付いてねぇとでも思ったのか? アイツお前の事ばっか見てんじゃん。つか、アンタもだけどさバレバレだっての」  職場では出来る限り、話しかけないようにしていたし、何より今はまともに話しすらしていない。だからまさか一臣に関係がバレるなんて思ってもみなかった。 「なんか知らんけど、上手くいってないみたいだし? あんな奴止めて、俺にしとけよ……優しくしてやるぜ?」  耳もと甘く囁く声が聞こえる。瀬名を諦めて一臣に乗り換える? いくらなんでもそんな事は……。 「それに、瀬名と付き合う前はあんた、ヤリチンだったんだろ? じゃぁ一回くらい俺にもヤらせろよ」 「……」  どうやって調べたのかはわからないが、目の前のコイツは色々と事前に理人の事を調べ上げている。  その上で、こうやって関係を迫って来るのだ。 「気持ちがいい事嫌いじゃないんだろ? だったら、いっそ流されちまえよ……いやな事も、辛い事も何もかも忘れて楽しもうぜ?」  まるで悪魔の囁きのように甘美な誘惑に頭がくらりとする。 「……っ」 「なぁ、どうする?」  するりと股間を撫でられ、割られた足の間では、理人が腰を揺らすのに合わせて一臣の膝が竿の根元の柔らかな部分を押し上げるように刺激してきた。  瀬名を裏切ることは出来ないと頭ではわかっているのに、媚薬によって高められた身体は与えられる快楽に貪欲に反応してしまう。 「はっ、あ……っ」 「言えよ、気持ちよくなりたいって」 「ふざけんな!……誰が、んぅ……っ」 「言わないとずっとこのままだぜ?」  グリッと先端を指で押しつぶされて、たまらず甘い吐息が漏れた。 「くそ……っ、は、あ……っ」 「ほら、強がってないで言えよ、俺のが欲しいって、さっきから物欲しそうに腰揺らしてんじゃん」  そんなことあるはずがないのに、一臣の言葉を否定しきれない自分がいる。  一度、身体が覚えた快感は簡単には忘れられなくて、中途半端に火照ったまま放置されているのが辛くて仕方がなかった。早くこの熱を解放して欲しくて強請るように見つめてしまう。 そんな自分の浅ましさが嫌になるが、それでも我慢できない。 「――――」  もう耐えられないと口を開きかけたその瞬間、突然オフィスの入り口の方でガタンという大きな音がした。 「――なに、してるんですか、こんな時間に……二人きりで……」  突然聞こえて来た地を這うような低い声にハッとして振り返ると、そこにはいつの間に来たのか瀬名が立っていた。 「な、せ……瀬名っ」 「随分楽しそうな事してるじゃないですか理人さん」  冷たい笑いを張り付かせ、どういうことだ? と、ばかりにゆっくりと近づいてくる瀬名。顔は笑っているが目や声色は全く笑っておらず全身の血の気が引いていく。  こんな状況を見られておいて言い訳もクソもあったものじゃない。 「ち、ちがっ、これは――」 「たく、見ればわかんだろ? 今、すっげー盛り上がってるトコだから邪魔すんなよ」 「おい! 何ふざけたこと言って……っんんっ」  突然ぐいっと顎を掴まれて、唐突に深く口付けられた。避ける暇も無かった。歯の裏や頬の内側を舐められびっくりして声も出ない。  なんとか抜け出そうともがいてみるけれどデスクに両手を縫いとめられていて自由が利かない。  一臣の背後に居る瀬名が怖くて顔を背けたかったけれど許してもらえず、逃げてもすぐに追いかけて来て熱い舌に絡めとられる。 「ん、ふ……ん、んんっ」  今、瀬名がどんな顔でこっちを見ているのか。恐怖で見ることが出来ず堪らず理人は目を瞑った。 「桐島君……君っていつもそうやって強引に人のモノに手を出して来たんでしょ。ガキかな?」 「あぁ?」  呆れたような物言いに、一臣がピクリと反応を示す。 「社長の甥っ子だか何だか、知らないけどさ……社会人になって人のモノに手を出すとか無いわ……」  鼻で笑われ、一臣がようやく理人の上から退いた。一体何が起きているのかよくわからないが、怖すぎて目を開けることが出来ない。  ――怖い? 今までいろいろな経験をしてきたが怖いだなんて思ったことは無かったのに、瀬名にこんな場面を見られて嫌われたのではないかと現実を直視できない自分がいる。 「他の物だったらある程度許してやってもいいとは思うけど……理人さんだけはだけは無理」 「!?」  突然強く抱きしめられた。驚いてそっと目を開けると目前に瀬名の顔があって――。 「……この人は、理人さんは僕のモノだ。誰にも渡さない」 「――ッ」  まさかの告白に息が止まりそうになった。あんな酷い事を言ったのに、まだそんな風に思っていてくれたのかと思うと、胸がぎゅっと苦しくなる。

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