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キャロル

 気が付くと見慣れた天井と照明が目に入った。  ガバッと起き上がって、あれは夢だったのかと辺りを見回す。  上半身には何も身に着けておらず、下着一枚履いただけの状態で寝ていたようで理人は眉間に手を当てて小さくため息をついた。  あの後、一体どうなったのだろう? 一体自分がどうやって帰って来たのか覚えていない。昨夜の出来事が思い出されて思わず頭を抱えたくなった。  昨夜自分は何をした? いくら薬に支配されていたとはいえ、オフィスでしかも瀬名に犯されながら嬉々として他の男のモノを咥えるだなんて。  何処の安っぽいAVだろうか。  あんな浅ましい姿を2人に晒してしまった事実を思い出し、枕に顔を埋めて羞恥に悶絶した。  いくら瀬名でもこんな見境のない男など流石に呆れてしまったに違いない。軽蔑されて嫌われたとしても自業自得だ。  嫌な考えに胸を焦げ付かせていると突然寝室のドアが開いて、心臓が飛び出るんじゃないかと思う程驚いた。 「あれ、起きたんですね理人さん」 「お、おぅ」  おかしい。まだ夢でも見ているのだろうか? いつもと変わらぬ瀬名の様子に混乱する。 「急に気を失うからビックリしました。そんなに気持ちよかった?」 「……っ」  何処か冷たい声色に訊ねられ、言葉に詰まる。 「まぁいいや。起きれそうなら朝食を作ったので一緒に食べませんか?」 「え?」 「えっ?」  瀬名の意外な提案に理人が驚きの声を上げると、逆に瀬名も驚いている様子で互いに顔を見合わせた。  まさか、瀬名がこんな事を言ってくれるとは思ってもみなかった。 「……怒って、ないのか?」 「怒ってたのは理人さんの方でしょう?」  言われてみれば確かにそう。確かに数週間前までは怒っていた。でも、あれは頭に血が上っていただけで、ここ最近は怒っていたわけでは無い。  寧ろきちんと話をしたいと思っていた。  話すチャンスが無いと悶々としていた所に今回の件があって、それで――。 「二股掛けられたんだ。怒るのは当然だろうが」 「それですよ、それ! どうして僕に二股疑惑が掛けられてたんですか?」  意味が判らないと言った風に首を傾げられ、若干イラっとしたが、此処で怒りを爆発させたらこの前の二の舞になってしまう。 「しらばっくれんなよ。わざわざ職場にラブラブ弁当寄越しに来てた奴が居ただろう。仕事終わりにデートだったのか知らねぇが、オフィス前で待ってる女を見たぞ」  あれを浮気と言わずに、なんという。思い出したらだんだんとムカついて来てしまった。冷静に話し合うつもりだったのに、気がつけば喧嘩口調になっている事に自分でも驚く。 「……あれ、僕の姉さんですよ」 「……あ?」 「だから、真奈美って言うのは、僕の姉なんです」  さらりと言われ、理人は一瞬何と言われたのかわからず思考が停止しかけた。  瀬名は今なんと言った? 姉、だと?  そう言えば、以前東雲から貰った瀬名の報告書に姉がいると確かに書いてあった気がする。 「丁度、数日前から姉が田舎から出て来てたんです。元々世話焼きな性格だったのであれこれ世話を妬いてくれてて……一応、姉さんに理人さんを紹介しようと思ってたんですが……電話に出てくれなかったから……」 「……じゃぁ何か? あの日は俺が一人で勘違いして、勝手にキレてたって事か――!」 「まぁ、そうなりますよね」 「……」  恥ずかしすぎて穴があったら入りたいとはこのことか。  理人はじわじわと赤くなった顔を両手で覆うと、再びベッドに突っ伏して撃沈した。  本当に、どうかしている。  姉がいる事は知っていた筈なのに、女の名前が瀬名の口から出ただけでカッとなって話も聞かずに一刀両断してしまっていただなんて。

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