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キャロル ②

「……えっと、誤解は解けたって、事でいいですかね?」 「……くそ、死にたい」 「勘違いしてヒートアップしちゃったときはホントどうしようかと思ったんですが、そんな理人さんも可愛いですよ」  そっと覆いかぶさるように抱きしめながら耳元に吹き込まれる声が妙に甘くて、背筋がゾクリとする。  瀬名の言葉には相変わらず棘があるものの、行為の時のような冷たさや硬さは微塵も感じられない。寧ろ耳に響くその声色は優しくて、なんだかくすぐったかった。 「……俺一人で馬鹿みてぇじゃねぇか」 「ふふ、それだけ僕の事を思ってくれてたって事ですよね? 僕、凄く嬉しいです」  ちゅ、と音を立てて頬にキスを落とされて、思わず視線を逸らす。どうにもこうにも、こういうスキンシップは未だに慣れない。  恋人同士になって随分経つのに、未だにこうして触れられるとドキドキしてしまうのだ。  こんなんじゃまるで生娘みたいじゃないかと、理人は気まずげに咳払いをして誤魔化した。 「そ、それよりお前の方こそ、怒ってたじゃねぇか。さっき……その……」 「ああ、それは……別に。ただ、ちょっと悔しかっただけなので」 「え?」 「だって、理人さんは僕のモノなのに、あんな風に他の男に触らせようとするから……嫉妬しました」  ぎゅぅっと抱き寄せられ、肩口に額を押し付けられる。甘えるような仕草にドキリと心臓が跳ね上がった。 「……っ、あ、あれは……」 「わかってるんです。理人さんがそういうつもりじゃなかって言うのは。あぁでも、あんな風に乱れる理人さんも中々そそられるものが……」 「おいこら、変態」 「あはは、冗談ですよ……でも、薬仕込んだのがアイツってのが気に入らないので今度は家で二人っきりで試しましょうか媚薬プレイ。丁度もうそろそろアレも届く頃ですし」  にっこりと微笑まれて、理人は顔を引きつらせた。 「ふざけんなっ! 誰が、するかっ! って、おい! アレってなんだよ!?」 「えー、理人さんが買っていいって言ったんでしょ? 媚薬入りチョコ」 「あ? 何言って……」  言いかけて、理人の脳裏に先日のやり取りが蘇ってきた。  そういえば、確かに自分はチョコレートを買ってもいいと言った。しかし、アレは普通のチョコだったんじゃ――?  瀬名の発言に嫌な予感がして恐る恐る振り返れば、満面の笑みでもう一度同じ画面を見せて来た。  そこにはでかでかと『今の性生活に満足していますか?』という文字。  マンネリ化しているパートナーとの生活を媚薬を使って一変させようという、実に怪しい謳い文句に思わず絶句。 「…………」 「ね? ちゃんと書いてあるでしょ? 理人さんがいいって言ったからてっきり、興味あるのかと」 「くっ、……あるか馬鹿っ!」  あの時、妙に嬉しそうにしていたのはそう言う事だったのかっ!! 「はいはい、そんな怒らないで下さいよ。本当は興味あるくせに。……それにしても、さっきの理人さんの可愛さときたら……思い出すだけでも興奮しますね」 「っ、うるさい黙れっ!!」 「あ、また赤くなって……本当、理人さんてば照れ屋さんですね」 「てめ、いい加減にしろっ」 「はは、まあまあ。とりあえず朝ご飯にしませんか? 冷めちゃいますし」  瀬名は楽しげに笑うと、むくれている理人を宥めるように頭を撫でてきた。  いつもと変わらない優しい手つきに毒気を抜かれ、結局何も言えなくなってしまう。 (クソッ)  こうやって簡単に絆されてしまう自分も大概だなと思いつつ、瀬名に手を引かれてベッドを降りた。

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