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キャロル ③

テーブルに広げられた朝食は、いつもと変わらぬ和食。  鮭の塩焼きに卵焼き、味噌汁に漬物。そして白米。  炊き立てのご飯のいい匂いが鼻腔をくすぐり、空腹感を刺激される。そう言えば昨夜は何も食べていなかったと今更ながら思い出した。  自分が意識を失っている間に瀬名が作ってくれたのだろう。勘違いとはいえあんな冷たく突き放してしまったのに……。そう思うと申し訳なさでいっぱいになる。 「あ、理人さん。ご飯粒ついてますよ?」  そう言いながら、テーブルを挟んで向かい側に座っていた瀬名が身を乗り出してきてチュッと頬にキスをしてきた。 「っ、な……、馬鹿か!? 普通に言えよっ! 自分で取るからっ!」  不意打ちの行為に驚いて慌てて手で顔を覆うと、クスリと瀬名が笑い声を上げた。  瀬名は理人が慌てふためく姿を見るのが好きらしい。最近気づいた事だが、どうやら彼は理人が恥ずかしがったり動揺したりする姿を楽しんでいる節がある。  だから、わざとこういう事をしてくるのだ。  意地が悪いと思う反面、瀬名の新しい一面を見れた気がして、少しだけ嬉しいと思っているのも事実で。 「チッ……」  ニコニコと嬉しそうな表情を浮かべて此方を見ている瀬名を睨みつけると、理人は小さく舌を打って食事を再開した。 「あ、そうだ。理人さん……今度一緒に旅行に行きませんか?」 「旅行?」 「そう、実はナオミさん達から僕の快気祝いにってペアの宿泊券貰ってたんですが、色々あったから、ずっと切り出すタイミングがなくって」  そう言って、理人の目の前にチケットを二枚差し出してきた。 それは、誰もが知っている老舗の温泉旅館の名前が入ったもので、よく見たら貸し切り露天風呂もあると書いてある。実際に行ったことは無いがよくテレビでも紹介されている超有名な場所だ。 「アイツ……いつの間に……」 「だめ、ですか?」  捨てられた子犬のような目をして上目遣いに訊ねられ、理人は言葉に詰まった。勿論、ダメなわけがない。瀬名と一緒に貸し切り温泉だなんて、そんなの嬉しいに決まっている。  だが、その気持ちをうまく表現することが出来なくてつい、ぶっきらぼうな口調になってしまう。 「いいんじゃねぇ? 別に」 「良かった。じゃぁ決まりですね」  素直に喜ぶことが出来ない理人とは対照的に、瀬名は嬉しそうに微笑んだ。 「あ、でもその前にバレンタインがあるので……楽しみだなぁ乱れる理人さん」 「……くっ……てめぇの頭ん中はそればっかりか!! この変態がっ!!」  思わず手に持っていた箸を投げつけそうになる。  本当にこいつは――。  理人は心の中で盛大にため息をつくと、再び瀬名と向き合って食事を再開した。

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