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キャロル ⑤ ※瀬名視点

 それから数週間が過ぎたある夜、9時を少し回った頃仕事を終えた瀬名が理人の待つマンションに帰って来た。  今日は理人はどうしても外せない用があるとかできっちりと定時には上がってしまって、少し寂しい思いをしたが、スマホに一言部屋で待っているとメッセージが送られてきた時は嬉しくてつい頬が緩んでしまった。  思わずにやけそうになる頬を隠し切れずに玄関の扉を開けると、ふわんとカレーの食欲をそそるいい匂いが漂ってきた。  靴を脱いでキッチンへ足を向けると、エプロン姿の理人が鍋の中をかき混ぜているのが見えて、なんだか胸が熱くなる。 「ただいま、理人さん……珍しいですね、理人さんがキッチンに立つなんて」  後ろから肩と腰に腕を回して抱き締め、軽く耳に口付ける。 くすぐったそうに首を縮める仕草が可愛くて、そのまま首筋に唇を押し当てるとピクッと小さく肩が震えた。 「……凄く、美味しそう」  鍋の中を覗いて見るとコトコトと小気味いい音を立てじっくりと煮込まれたそれは上品な黄金色をしていて、程よく漂うスパイシーな香りが食欲を刺激してくる。 「ま、まぁ……今日はたまたまカレーが食いたい気分だったんだ。だから……」 「うん、カレーもだけど、理人さんがですよ」 「あ? はっ!?」  耳元で甘く囁き、舌を差し込みながらシャツの中に手を滑り込ませた。不意打ちを喰らって逃げようとする身体を抑えつけ、耳を嬲りながら胸の突起を摘まんでやると、理人が小さくため息のような喘ぎ声を洩らした。 「ぁっ……ば、ばか……っダメだっつってるだろうがっ」  敏感な部分を爪で掻いたり摘まんだりすると、すぐに乳首は芯を持って固く尖ってくる。それを弄ぶように執拗に責め立てると、瀬名の手から逃れようと身を捩りながらも次第に甘い吐息が漏れ始めた。 「ん……は、はなせっ……て、あ……ああっ!!」 「ん? ココだけでイっちゃいそうなんですか? 可愛いなぁ、理人さん」 「あ、あ……ちが……んんっ……」  コリコリと強弱をつけて刺激してやる度に、理人の口から切なげな声が零れる。このままここで押し倒してしまいたい衝動に駆られたが、なんとか理性で抑え込んで理人の身体を解放した。 「は、はぁ……は……」 「ごめんなさい、ちょっと調子に乗りすぎました。せっかく理人さんがご飯作ってくれたのに……続きは食べてから、ですね」 「……っ、クソ……あ、当たり前だ。馬鹿……っ」  ほんの一瞬、理人が物足りなさそうな、不満げな表情をしたのを瀬名は見逃さなかった。  だが、理人の方も自分の反応に戸惑っているようで、すぐに誤魔化すように眉間に深い縦じわを寄せて睨み付けてくる。 「……っ」  その表情があまりにも扇情的で、瀬名はゴクリと喉を鳴らして唾を飲み込んだ。本当にこの人はどうしてこうも煽るのが上手いんだろう。せっかく押さえ込んだ欲望が沸々と湧き上がり、今にも暴走してしまいそうだ。 「……? どうした?」 「いえ、なんでもないです。それより、僕も何か手伝いましょうか?」  瀬名は必死で平静を装うと、何事も無かったように微笑みかけた。 「いや、もうほとんど出来上がってるから、お前は先に風呂入って来い」 「……理人さんと一緒に入りたいんだけどなぁ」  甘えるような口調で言うと、途端に理人から鋭い視線を投げかけられる。どうせ駄目だとわかっていながらワザと言っているのだ。案の定、呆れたような溜息が返された。 「チッ……いいからさっさと行け!」 「はーい」  瀬名を追い払うようにシッシと手を振る理人にクスッと笑って、瀬名はそのまま浴室へ向かった。

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