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キャロル ⑥ ※瀬名視点
入浴を終えリビングへ戻ると、テーブルの上には既に二人分の食事が用意されていて、理人もちょうど洗い物を済ませたところらしく手を拭いて戻ってきたところだった。
カレー特有のスパイシーな香りが鼻腔を擽り思わず腹の音が鳴る。
「すみません、全部やらせちゃって」
「構わねぇよ。今日は気が向いただけだ」
理人はぶっきらぼうに答えると、瀬名の向かい側に座った。そして、早く食えと言わんばかりに顎でしゃくってみせる。
瀬名は苦笑すると、いただきますと呟いてスプーンを手に取った。
一口食べると、スパイスの効いた旨味が舌の上で溶けて広がる。
「どうだ? 美味いか? 美味いだろう?」
瀬名が黙々とカレーを口に運ぶのを見て、理人は何処か不安げに問いかけてきた。自信満々な言い方とは裏腹に、その瞳はどこか緊張しているようにも見える。
「はい、とっても。今まで食べたカレーの中で一番ですよ」
「そ、そうか……」
瀬名の感想を聞いて、何処かホッとしたような表情を浮かべる。
「それにしても、市販のルーを使ったんですよね? コクがあって美味しいです。何か隠し味とかあるんですか?」
「……それは、その……」
何気なく尋ねた言葉に、何故かもごもごと口籠る。そもそも、理人が料理を作ること自体が珍しいのだが、どうしたというのだろう。
「理人さん?」
「……」
瀬名が促すと、理人は少し恥ずかしそうに俯いたがやがて観念したのかボソッと小さな声で答えた。
「……その……明日はバレンタインだろう? だから……」
瀬名は一瞬目を見開くと、すぐに破顔して嬉しそうに笑った。
「あぁ、そういう。ふふ、そっか……それで……」
「この時期に買うの大変だったんだぞ! 若い女どもには変な目で見られるし」
チョコ専用ブースで悶々としている理人の姿を想像すると、不謹慎だが笑えてしまう。
「ありがとうございます。嬉しいです、凄く」
素直に礼を言うと、理人は照れ臭そうにそっぽを向いて残ったカレーを口の中に頬張ると、そそくさと席を立った。
そんな理人が愛おしくて堪らない。どうしよう顔がニヤけてしまう。
「――理人さん」
その後を追いかけ流しに皿を置くと理人の腰に腕を絡めた。
反射的に顔を上げたその唇にチュッと触れるだけのキスを落とす。
「なっ!? ――ンっ!」
驚いた理人が文句を言おうと口を開いた隙にすかさず舌を差し込むと、逃げるように引っ込められた理人のそれを捕らえて絡みついた。
「っ、ん……ぅ……」
歯列をなぞり、上顎を舐め上げるとピクンと身体が震えて甘い吐息が洩れる。
「ふふ、カレーの味がしますね」
「っ! 当たり前だっ!」
真っ赤になって俯いてしまいそうになる顎を持ち上げ再び唇を塞ぐ。
「ん……ふぁ……」
鼻から抜けるような色っぽい吐息はギリギリ保っていた瀬名の理性なんて簡単に吹き飛ばしてしまいそうだ。もっと深く味わいたくて、角度を変えて何度も舌先を絡ませていると、理人の身体からうっとりと力が抜けていく。理人の腕が瀬名の背中にしがみ付くように回され、身体が密着する。
「はぁ、可愛い……」
普段はあんなに強がっているくせに、こんな風に快楽に流されやすい所が可愛らしい。もっともっと気持ち良くさせてあげたい。
そんな邪な感情が沸き上がってくるのを感じながら、瀬名は理人を壁に押し付けてより一層激しく口内を貪った。
「ん、ふ……んん……瀬名……もっと……」
「……ッ」
理人が求めるように腰を擦り寄せてきて、熱い吐息が耳に掛かる。トロンと蕩け切った表情を見せられれば我慢なんて出来るわけがない。
「ベッド、行きましょうか」
耳元へ囁いてやると、その気になって来たのかコクリと頷く。欲しくて堪らないのか股間をいやらしい手つきで撫でられ、理性が飛びそうになった。
「っ、もう……煽ったのは理人さんだからね」
瀬名は理人の腰を抱き寄せると、そのまま寝室へと足を向けた。
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