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第10話

店長の手書きのメモを片手に閑静とした街並みを歩いた。 店長も電話越しの隼一の声が普段と違い、何処か沈鬱とした話し方に心配していたらしい。 幾つかのアパートを見て周り、ようやく、メモと同じアパートに辿り着き、隼一が住んでいると思われる二階の部屋へと階段を登る。 インターフォンを三回、鳴らした辺りでドアが開いた。 パーカーにスウェット姿の隼一が俺を見つめ、無言のまま、目を見開いた。 「 いきなりごめん、心配だったから....店長さんも心配してたよ」 ふう、と微かな吐息の後、 「 ....入って、灯真」 隼一が部屋に通してくれた。 1DKと思しき部屋を見渡していると、キッチンで麦茶を注ぎ、隼一はテーブルに置いた。 「 暑かったろ?」 常々、麦茶を作ってるのか、と、真面目な隼一らしいな、と感じ、微かな笑みが自然と浮かんだ。 日差しの下を歩き回っていたから、ひんやりした麦茶がとても美味かった。 「 心配なんてしなくていいよ。....変なところ見せたよな」 「 ....ううん」 隼一も麦茶の入ったコップを手に取った。 「 ....お前の友達、明文、だっけ、いい奴だよな」 「 ....明文が?」 「 うん。偏見は無いから、て色々、話し、聞いて貰ってて」 やっぱり、明文、隼一と連絡を取り合ってたか....。 眉間に皺を寄せて、再び、麦茶を飲んだ。 「 中学の頃さ、俺、とある男子生徒に恋をしたんだ。....当時、自分でも訳が分からなくて。そいつに嫌われたくも無かったし、自分は正常なんだ、て思いたくて、彼女を作った。....高校入ってすぐに別れた」 俺を見ないままでゆっくり語る隼一に釘付けになった。 「 あー、俺、女は無理なんだな、て気づいて。好きだった男子生徒にも、気づかれてたのかな、避けられてて...。大学入る前だったか、少しそいつに似てる男子生徒と寝ようとした。でも勃なくて...恋愛感情がないからかな、とも思ったんだけど」 「 隼一、もしかして、その...男子生徒、て....」 「 でさ、抱くのは無理なら抱かれるのはどうだろう、て思って....」 そこまで言うと隼一は笑った。泣きそうな笑顔だった。 「 不思議だよな、ただ、寝てればいいだけ。抱かれるのは容易かった。こないだのあの男が、それ。付き合うつもりは無い、て最初に釘さしてた筈なのに、なんか思わせぶりな態度、取ってたのかな」 「 ....俺も....俺も同じかも、隼一」 俺が隼一を見たまま口にすると、ようやく、隼一が俺を見た。 初めて見る、微かに涙を浮かべる隼一の顔に胸が軋んだ。

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