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第5話 金獅子
「さっきの……。助けてくれたの? 何でここにいるんだ?」
「ああ。獅子ならもう俺の中に戻ったよ。何でって、昨日からずっと気になって君のこと考えてたら、急に変な力が流れ込んできたからさ。急いで追いかけてきたんだよ」
「獅子? 獅子って、もしかして」
にこりと男が笑う。男が左手をそのまま自分の左胸に当てると、体が仄かに金色に輝き始める。胸から溢れるように光が湧いて、きらきらと細かな光の粒が流れ出す。集まった光は、男の傍らに一頭の巨大な獅子を形作った。黄金の毛が輝く百獣の王。間違いない、先ほど助けてくれた獅子だ。獅子座の星紋は心臓近くに輝くと言う。この男は金毛の獅子の護り主なのか。
獅子に見惚れていると、ふわりと柔かいものが唇に触れた。男の指に顎を取られて、もう一度口づけられる。
「何するんだ!」
「ふふ、だって、守護獣なんかよりも俺の方を見てほしいから。会食までなんて、とても待てない。このまま連れて帰りたいなあ」
「会食?」
「親には見合いの席まで待てなんて言われたけど、君の写真を見て直感が働いたんだ。一刻も早くこの子に会いに行くべきだって」
「見合い? あんたがおれの見合い相手? そんな、おれたち男同士なのに」
父に渡された釣り書きは開きもせずに捨てた。見合い相手が同性だなんて思ったこともない。
「体なんて力を使えばいくらでも作り替えられる。性別なんて大した問題じゃないよ。火の星座なら、考えるより先に体が動くものだ。君に会いに来てよかった」
男はうっとりとした目でおれを見た。
「おれは……、おれはそんなことない」
幼い頃から怖がりで、人の荒ぶる感情が苦手だった。だから、自分が何をしたいかよりも周りの気持ちに合わせて生きてきた。考えるより先に行動したことなんかない。
「初めの星座なのに? 赤ん坊が手で何かを確かめるように、意思より先に動き出すのが牡羊座だろう? 白羊宮 の火未 」
こんなに堂々と振る舞う男と見合いなんて、しかも絵に描いたような理想の牡羊座を語られるなんて。困るとしか言いようがない。
「自分が名乗らないのは不公平かな。俺は獅陽 。獅子に太陽だ。見ての通り、獅子 宮 の金毛が俺の守護獣」
……獅子座の、しよう。こんなにも真っ直ぐに自分を出すことが出来たなら、火の一族に生まれたことを幸せだと思えるのかもしれない。
「黄道十二宮の守護を受けた者が、同じ時代に必ず生を受けるとは限らない。白羊と獅子をそれぞれ身の内に持つ者が同年代で出会うなんて、それこそ運命だと思わないか?」
遠い遠い昔、天空から降りた十二宮の主の化身たちは人と交わり婚姻を成した。年月と共に自らの力が少しずつ衰えた時、彼らはそれぞれに永い眠りについた。力が満ちた時に守護獣として再び地上に現れるために。己の血を分けた一族を護るために。
運命。獅陽の言葉が耳の中で渦を巻く。同じ火の属性を持ち、同じ金毛の守護獣を持っている。
確かに珍しいことだろう。でも、それを運命と呼ぶのかなんてわからない。
「助けてくれてありがとう。だけど……。会ったばかりで、そんなことを言われてもわからないよ」
「今世の白羊の護り主は、ずいぶん大人しいな。それならこれから俺を見てくれればいい。俺だけを」
輝く笑顔に、おれは言葉を失くした。
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