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7 なんで、こんなに気持ち良いの?
「あんた、上遠野。あんたかよ」
「こっちのセリフだっ」
掴んだ石鹸を投げつけたくなったが、危ないので止めておく。むすっとしたまま「どうぞ」と手渡すと、星嶋は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして石鹸を受け取った。
「……どうも。って、あんたまだ指輪してんのかよ! 外せ! 返せ! 棄てろ!」
「あああ、うるさいなあ!」
「キスしたら返すって言っただろうが! この嘘つきが!」
「うううううるさいっ。無効だって言っただろっ!」
「じゃあ、どんなキスが有効なんだよ!」
「知らない、知らないっ!」
キスキス騒ぐな! 恥ずかしい!
真っ赤になって、思わずシャワーを星嶋に向かってかける。
「ぶっ……、てめ……!」
怒ったのか(まあ、当たり前だ)、星嶋がおれの腕を掴む。ギロリと睨まれ、萎縮して身体を強ばらせた。
「大人しいふりして、とんだ猫かぶりだな、あんた」
「は、はぁ?」
大人しいふりなんか、した覚えないぞ。まあ、ネクラなのは認めるけど。
「聞いた話と随分キャラが違うじゃねえかよ。どこがクールだ」
あ、うん。クールではないね。無口なだけ。しかも口ベタなだけ。
「だから何だよっ」
「本性はビッチのゲイ? あんなキスじゃ満足できないって?」
「は――はぁっ!?」
(今、ビッチとか言った!? この人! やだ、最低!)
口悪っ。性格悪っ。目付き悪ぅ!
「上等だ」
星嶋がぐい、とおれの身体を引き寄せる。
あ。と思ったときには、唇を塞がれていた。
「んっ!? ん、んむっ!」
強引に舌が捩じ込まれ、咥内を犯す。唾液を絡め、ぬるぬるした舌が口の中で暴れる。
「ん、ぅんっ……!」
一度どころか、二度目まで。こいつに奪われるなんて!
もがくが、星嶋は離してくれない。胸を叩いてもびくともしない。風呂場の熱気のせいか、身体が異様に熱くなる。
「んっ……、はっ、あっ、んっ……」
くちゅくちゅと、舌の音が響く。耳がおかしくなりそうだ。ハァハァと息を切らし、激しいキスに翻弄される。
(ダメ、なのにっ……)
嫌なハズなのに、身体が熱くなる。気持ちよさに、背筋がゾクゾクする。
こんなのダメだ。絶対に良くない。星嶋のこと、名前をようやく知ったばかりで、何も知らないのに。好きな人としかしちゃいけないのに。なんで、こんなに気持ち良いの?
星嶋は噛みつくようにキスをする。唾液で顎がベタベタだ。舌がぞわぞわする。
「あ、あっ……ふ、んっ」
ビクビクと身体を震わせ、懇願するように胸を叩いた。何度も叩くおれに、ようやく唇が離れる。唇がじんと痺れた。
「はっ、はぁ、はぁ……っ」
「なんだよ……、ギブアップか?」
揶揄するような声に、言い返したかったが、力が入らない。
頭がボゥっとする。
「――は。何だ、キスで感じたのか? まさか無効だなんて、言わねえだろうな」
星嶋が手の甲で、おれの下腹部に触れた。敏感なところを撫でられ、ビクンと身体を跳ねらせる。
「ひぅっ!」
「っ! な、なんて声だしてんだよっ……」
「なっ、な……」
そんな場所、誰にも触られたことないのに。キスで勃ってしまったのも恥ずかしいが、勝手に触られた事実に羞恥心と怒りが沸いてくる。
「こっ、こんなとこ触られたら、声くらい出るだろっ」
「あんたが感じやすいんだろっ――っ!?」
反撃してやる、と星嶋の性器を掴む。急所を触られて、驚かないほうがおかしいだろう。
「ちょっ……」
焦る星嶋の性器を、恐る恐る触った。僅かに硬い。
「ほら、お前だって――」
「このっ……、バカがっ……」
「ちょ、触るなよっ!」
「てめぇがっ、離せっ!」
星嶋の大きな手が、おれの性器を掴む。ただでさえ敏感なのに、そんな風に触られたら。
「あっ、やだ、待って……っ」
「くそ、このっ……、誘ってんのかよ、ビッチがっ……」
星嶋の性器が、手の中で大きくなる。他人の性器なんて触ったことがなかった。大きいし、硬いし……。星嶋のだっていうのに、酷くドキドキした。
「っ、ダメ、やだそこっ……!」
「もう黙ってろ!」
うるさいとばかりに、唇を塞がれる。
(三度目――)
ファースト、セカンドに続いてサードまで!?
なんで、おれの初めて、全部こいつが奪っちゃうんだよ。
キスにショックを受けている場合じゃない。気持ち良くて、イきそうだ。
「んぁ、あっ……、んぅ」
星嶋の手が、性器を弄くる。このままでは、初めてイかされるのが星嶋になっちゃう。
「あ、やぁっ……、んっ」
キスの合間に抵抗を見せても、離して貰えない。手の中で大きくなる星嶋を、どうして良いか解らない。
「っ――! あ、あっ!」
ビクビクと身体をしならせ、おれは星嶋の手に精液を放ってしまった。イかされたショックで、力が抜ける。
「あ、あ……っ、んっ」
ぬと、と唇から舌が離れる。力が抜けたせいで、手から星嶋の性器が離れた。
ぐったりと、浴槽のタイルに座り込む。星嶋の性器はパンパンに膨れ上がって、反り立っていた。
「は……、はぁ……はぁ……」
「この……、くそっ……」
苛立ちながら、星嶋が髪を掻き上げる。今までよく顔を見なかったが、存外、精悍で良い男だった。
「一人だけイって、満足かよ……。くそ……」
「……っ」
潤んだ瞳で、星嶋を見上げる。そんなことを言われても。
「はぁ――良いぜ、誘いに乗ってやるよ」
「……え?」
ギロリと睨まれ、ビクッと身体が震える。わけも解らないまま星嶋を見ていると、彼は腕を伸ばしおれの膝に手をかけた。
「え?」
「ヤって欲しいんだろ」
いや、そんなこと一言も言ってないですけど――?
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