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葬式の中で 1

屋敷の大広間には、大勢の人達が揃いの喪服を着、終焉を迎えた者に焼香をあげていた。 その者の身内である、父と母と並んで座っている眞ノ助は、両親に弔いの言葉を掛ける人らを尻目に、目の前を見つめていた。 部屋いっぱいに飾られた白い花の中心辺りに、威厳のある、眞ノ助と目元が似ている老父の遺影がそこにあった。 祖父の清志郎だ。 歳を取るにつれ、奇怪な言動をし、時には暴言を吐き、時には使用人に手を上げ、使用人達の手を焼いていた。 それだけならば、眞ノ助に危害を加えて来ないからまだ良いと思っていたが、眞ノ助を見た途端、向けられてこなかった鋭い目つきで、こう放った。 「眞一。お前なんかに佐ノ内家の当主が務まるはずがない」 頭の中が真っ白になった。 祖父の息子であり、眞ノ助の父である眞一だと思い違い、さらには頬を殴られた。 何もかも祖父にはされたことがないことばかりで、殴られた反動で地に伏せ、呆然とまた殴りかかろうとしている祖父のことを見つめていると、偶然通りかかった使用人に羽交い締めにされていた。 その間もまだ塞がれていない口で、思いつく限りの汚い言葉を、何も抵抗出来ない眞ノ助に浴びせまくっていた。 こんな化け物見たことがない。 自分にだけ愛情を注いでくれる、優しい祖父はどこに行ったの。 眞ノ助の側仕えがようやく来て、祖父から離れても、祖父は廊下に響かんばかりに暴言を吐き続けていた。 そんな祖父を見たのが最期であった。 次に対面したのは、頬の腫れがようやく引いてきた頃、棺の中で物言わぬ姿となって、眞ノ助の前にいた。 穏やか、とも言えない、頑固そうに口を曲げている表情。 死してもなお、自分に向けていた表情とは似ても似つかぬ表情に、今日あげている葬式は、祖父に似た赤の他人だと思い、一滴も涙が出なかった。 それは、両親も同じらしく、特に祖父の子供であるはずの父は、いつもと変わらない、何を考えているのか分からない無に近い表情で、親族に挨拶をしに席を外した。 そのうち、母も眞ノ助のそばから離れていた。 ひとりぼっち。 急に寂しく感じられ、だが、誰も眞ノ助のことを慰めることはなく、代わりにこれみよがしに囁き声が聞こえた。 「……余分に、お金を巻き上げていたのでしょ? だから、こんなにもご立派なお屋敷に住めるのよね……」 「……何人もの愛人がいたみたいね。大奥様なんて、それのせいで首を括ったみたいだわ……」 「……今の奥様は、借金の肩で結婚させられたみたいで。お可哀想に……だから、そんな元で産まれた子供なんて……」

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