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葬式の中で 2

耳を塞いだ。 年齢が上がっていくうちにつれて、親族や近所の人達が自分の家柄に対して、良く思ってないことを嫌というほど知ることとなった。 けれども、あの人達が言うような、いわゆる借金取りや成金ではなく、祖父より前の代からしてきた事業が成功したから、今のような家柄となったのだ。 しかしながら、恋愛の末に、ではなく、利害の一致で結婚した、という点に関しては事実であった。 だから、ただの跡継ぎにしか過ぎない眞ノ助には一切愛情を与えず、冷めた親子関係を築いていった。 そうであるから、祖父の与えられた優しさと慈愛がどれほど眞ノ助の心が救われたことか。 そう思っていたのに。 「…………っ」 こんな所、いたくない。 眞ノ助は、廊下へと逃げるように駆け出した。 まだこの後もいなくてはならないし、このようなこと次期当主とも言われている自分がしてはならないことだと、後の父の態度のことを思うと身震いしてしまうが、今はとにかく自室にこもって、耳障りな会話から遠ざけたかった。 そうしたことで頭がいっぱいであるからか、曲がり角から不意にやって来た人にぶつかってしまった。 「……っ、だ、誰だ!ちゃんと見ない奴は──っ!」 目を吊り上げ、文句を言いながら顔を上げたが、相手の顔を見た途端、声を失った。 眞ノ助から見て、左側に七三分けをし、洋風の黒い服に身を包んだその格好からして、男性であるようだが、女性と言ってもおかしくはない、愛らしい顔立ちをしていた。 あの時とは格好が違うが、間違えるはずがない。今、目の前にいるのは。 「──『金平糖の君』……!」 「…………え?」 「あ……っ……」 無意識に発していた言葉にきょとんとした男性を見たことにより、ハッとした眞ノ助であったが、もうすでに遅かった。 心の内で呼んでいた愛しの名を口にしてしまうだなんて。 顔に火がついてしまったかのように、熱く感じ、わなわなと震えていた。 「私の不注意で申し訳ありません。立てますでしょうか」 ──ふふ、きちんと名前が言えてえらいですね。そんな子には、コレをあげましょう あの時の声が、手が、重なった。 「手を借りなくても立てるし! 余計なことをするなっ!」 八つ当たりをするかのように差し出してきた、細くも長い綺麗な手を強く叩き、怒った顔をして立ち上がった。 痛がっている素振りを一瞬見せたが、申し訳なさそうな顔をし、「失礼しました」と深く一礼をした。 その所作のなんと美しいことか。口ぶりからして、良いところの人のようだが、このような顔、一度見たら忘れられないはずだから、この辺りの人ではなさそうだ。 『金平糖の君』であるのなら、なおさら。

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