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つまらない 1

祖父に似た誰かの葬式を終え、数日が経とうとしていた。 その数日は、特に大きな怒りを覚えることなく淡々と過ごせていた。 今までは一日に必ずと言っていいほど、怒鳴り声を上げ、時には物を投げたりしていた。 その物が、平謝りする側仕えに当たった時には、底知れない快感を覚え、一種の趣味のように、それからは怒りと共に投げることもしていた。 喚き、投げて怪我をさせようが、誰にも咎められないし、投げた物はもういらない物だから、何したっていいのだ。 ところが、例の側仕えが来た途端、葬式の時のような声を上げることはなく、少し苛立ったぐらいのもので、今までのようなことはしなくなった。 それはそれで退屈さを感じたが、『金平糖の君』と瓜二つの綺麗な顔を傷つけたくないと、どこか思っていた。 「坊っちゃま、おやつを持ってきました。開けてもよろしいでしょうか」 「そこに置いておけ」 「では、こちらに置いておきます。よろしければ食べてくださいませ」 障子越しで正座をし、深々と一礼をし、去っていく影を見た後、掛け時計を見やる。 もう、そんな時間なのか。が、一口も食べたいとは思わない。 今日もわざわざ持ってきたおやつをまた食べずに置いておくかと、仕方なしに通っている学校の勉強に手をつけた。 しばらく億劫そうにしていた勉強は、なかなか進むことはなく、閉め切っていた部屋は段々と薄暗く感じ、少しだけ明かりを取り入れようと、文机のそばの円窓を薄く開けた。 手前には縁側、そしてその先には高い塀に囲まれ、手入れが行き届いている庭が広がっていた。 まだ肌寒いが、梅が咲き誇り、外に出ればその匂いが漂ってくる。 この季節も嫌いだと思いながら、喉の渇きを覚え、側仕えが置いていった茶でも飲もうと、面倒くさそうに立ち上がり、障子に手を掛けた。 「あ、坊っちゃま。ちょうどよく温かいお茶を淹れておきましたよ」 障子越しであれば誰かが来ていることはすぐに分かるはずなのに、全く気づかなかった。 驚いて、寂柳のことを見下ろしていると、こちらと目が合った途端、微笑にも似た表情で見上げていた。 どくん。 「おやつのカステラも新しい物に変えておきましたので、よろしければ。では、私はこれで。お勉強、引き続き頑張ってくださいませ」 スっと立ち上がった寂柳は、最初に持ってきたのだろう、古い方のおやつのお盆を持ち、一礼すると、風のように素早く去っていった。 立ち尽くしていた眞ノ助は、ぼんやりとその後ろ姿を見つめていたものの、足元に置かれていた新しく淹れたのだという茶を手に取った。 言っていたように今さっき淹れたと分かる、指先にじんわりとした温かさを感じた。 それを一口飲んだ。が、少し目を見開いた。 舌に馴染むぐらい、味わい深いものであった。 今までの、すっかり冷め、苦味しか感じなかった茶とは比にならない程のものだった。 なんなんだ、これは。 眞ノ助はそのまま無我夢中で飲み続けるのであった。

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