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つまらない 2
あっという間に飲み終え、口の中に残った茶の味に余韻に浸りながら、カステラを一口だけ口に含み、少しだけ進んだ勉強をして、しばらくした後。
「眞ノ助坊っちゃま。夕食の時間でございます」
掛け時計が七時を告げる音が鳴り止んだと同時に、廊下からよく通る綺麗な声が聞こえてきた。
この時間が来てしまった。
やはり同じく空腹を感じないが、否が応でも食事をしに行かなければならない。
憂鬱だとため息混じりにそう言うと、服を整え、待機している寂柳の元へと向かった。
「旦那様。奥様。坊っちゃまを連れてきました」
寂柳を先頭に案内された部屋に行くと、先にいたらしい両親にそう告げ、横にずれると、眞ノ助を自然と部屋に行かせる形になった。
二十四畳程度の和室に、豪奢なシャンデリアと細やかな刺繍が施されたカーペットの上には、十何人が座れる、これもまた細かい装飾がなされているテーブルと椅子が置かれており、奥の上座に父が、その右側に母が静かに座り、父のすぐ後ろには秘書が、その周りには使用人が数人立っていた。
人の息遣いも聞こえない、代わりに耳鳴りにも似た音が聞こえつつも、震える足を無理やり動かした。
父がいる席とは真反対の下座に、寂柳が椅子を引き、座ると、控えていた使用人に前掛けを付けられ、少しした後に料理係が料理を乗せた台車を引いて、部屋に入ってきた。
父から順に料理が置かれ、眞ノ助にも置かれた後、両親が「いただきます」と言って、料理に手をつけた。
「いただきます……」
恐る恐るといった手つきで料理をすくい、ちまちまと食べ始めていると、父の秘書が今日の実績を淡々と話し始めた。
今日もまたこの話か。
常日頃、息つく暇もない父であるから、食事中でも関係なく仕事の話をするのだろうが、家族間での話もなく、面白くもない話を食事し終えるまで聞いているのは大変うんざりだった。
が、次期当主になるしかない眞ノ助にも将来関係があるから、遠回しに聞いておけという意味合いがあるのだろうけれども。
今のところ、父の後を継ぎたいとは微塵と思ってないのが正直なところであるが、かといって他にしたいと思うようなものはない。
今もそうだが、自分は何をしたいのだろう。
特に目的もなく、生きているだけの自分はどうしたいのだろう。
昔は、その場限りに欲しいと思った物を与えられただけで、後々になって特に欲しい物ではなかったということは何度もあったが、それに対しても誰かが言うわけでもないから、好き放題していた。
今となってはガラグタの山となった"一目惚れしてきた物達"は、一歩たりとも入らせない眞ノ助の部屋を侵食していった。
部屋の主も片付ける気もないので、部屋の大半がそれらで埋まっていた。
本当は目に入って欲しくもない物達なのだが、どうしようも出来なかった。
本当に自分は、どうしたいのだろう。
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