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つまらない 8
「坊っちゃま。そのまま眠るおつもりですか?」
「そうだが?」
「先ほどもおっしゃいましたが、髪を濡らしたままですと、風邪を引かれてしまいますから」
「だから! ……っ!」
もう、放っておいてくれ、と掛け布団を被ろうとした時、頭を鷲掴みにされた。
「な……っ」
目を見開いた直後、投げ捨てたタオルをいつの間にか持っていたらしく、眞ノ助の髪を優しく包み込むと、軽く押しつけていった。
何を鷲掴みして、と言おうとしたが、言う気になれず、大人しく側仕えに髪を乾かされる。
いつの頃からか、されてこなかったこと。
しかも、恐らく今までの側仕えよりも比べものにならないぐらい、優しい手つきでやってくれている。
今までは、眞ノ助を恐れてなのか、髪が抜けてしまうのではないかと思うぐらいに強く引っ張られたり、掻き回すようにわしわしとされ、ぐしゃぐしゃになるぐらいにと、とにかく乱暴に髪を拭かれたことが多々あった。
日頃の恨みを発散させられているせいもあるかもしれないが。
だから、この側仕えのやり方は、まるで、誰かに優しく頭を撫でられているかのようだ。
おじーちゃん。
唯一頭をそう撫でてくれた人物を思い出す。
どうしたって、祖父とは長くいられない。
けれども、まだいて欲しかった。
この広くて、冷たい屋敷には、誰一人として自分のことを構いも、ましてや、味方さえいないのだから。
ああ、どんどん嫌な思考へと陥ってしまう。
眞ノ助は、その思考を遮るように目を閉じた。
前までは瞼を閉じれば、ある程度薄暗かった。
けれども、この側仕えが明るくさせてしまったから、瞼裏でも明るい。
でも、悪くないとどこか思っている自分がいる。
と、急に眠気が襲ってきたらしい、身体がぐらつき、自身の背後にいた気配に身を寄せるように、傾けた。
その者が何か言っていたような気がするが、耳を傾ける気にも、目を開けるのも億劫で、そのまま眠りついた。
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