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つまらない 9

小鳥のさえずりが遠くから聞こえ、ふっと目を開けた。 日が差しているらしい、障子を通して、散らかっている部屋を薄ぼんやりと明るくさせている。 いや、あの側仕えが眞ノ助が入浴している合間に、寝れられる場所を作ったのだ。細かく言うと、散らかって"いた"と言うべきか。 それにしても、いつ寝たのだろう。 そうだ。側仕えが髪を乾かしている最中に、寝てしまったのだ。 そこで、上半身を起こす。 いつもならば、あまりにも眠くて、なかなか起きることが出来なかったが、今日はぐっすりと寝られ、朝日が昇る前に起きたようだ。 何故、そのようなことに。 ふいに布団を見やった時、答えが出た。 畳のように薄汚れていた布団が、真新しいような真っ白い物に換わっていたのだ。 ここまで換えていたなんて。 どこまで気が利くんだ。 「──眞ノ助坊っちゃま。失礼します」 驚きながら布団を触っている時、外から透き通るような声が聞こえてきた。 そちらの方を見ると、恭しく開ける側仕えと目が合った。 「あ、起きられていたのですね。お早いこと。昨日はよく寝れましたか?」 「え、……ま、まあ……」 虚を突かれたかのように曖昧に返事をすると、「それは良かったです」とふんわりと笑った。 心臓が高鳴り、慌てて目を逸らした。 「こ、こんな朝早くに、何しに来たんだっ!」 「まだ坊っちゃまは、起きられたばかりだったのですか? 私は起こしにと、坊っちゃまの身支度のお手伝いをしようと来たのですが……」 入ってきて、灯りを灯した側仕えが、きょとんしたような言い方をしたことに、恥ずかしくて、瞬時に赤くなった。 「う、うっさい! そんなこと分かってる!」 「ええ、そうでしたね。私の失言でした。今日は、うんと綺麗にして差し上げますので、どうかお許しを」 頭を下げる側仕えに、「……早くしろよ」とぶっきらぼうに言い捨てながら立ち上がると、「では、お召し物を替えますね」と眞ノ助の寝巻きを脱がしていく。 今までならば何ともなく、淡々と行われていたこの行為も、高鳴っていく心臓が聞こえてしまうのではないかと思うのを、密かに抑えることに必死な時間へとなっていた。 『金平糖の君』に非常によく似た男の、艶やかな髪、瞼に縁取られた長い睫毛、雪のように白くて綺麗な肌、そして、上品と色気も併せた薄い唇。 それらが同時に、しかも、間近に迫り、それをどう心臓を抑えればいいというのか。

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