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つまらない 10

「坊っちゃま。出来ましたよ」 「……・・・・・あ、ああ……」 にこりと笑いかける側仕えに虚を突かれつつも、自身の姿を見下ろした。 ワイシャツに黒ズボンという出で立ち。この姿を見るだけで吐き気を覚える。 「……坊っちゃま? 先ほどは顔が赤かったようですが、今は青ざめております。どこか具合が悪いのですか……?」 「……っ!」 ひょい、と顔を覗き込んできた側仕えに、不意を突かれて、ビクッとする。 「あ、今度は赤く──」 「触るなッ!」 伸びてきた手に反射的に叩いた。──はずだった。 ところが、実際には引っ掻いたらしく、眞ノ助の目に映るのは、驚きと痛みで目に涙を滲ませた側仕えの顔と、繭のように白い手に似つかわしくない、引っ掻き傷。 「……ぁ…………」 言葉にもなってない小さな声を上げたのは、どちらであっただろうか。 側仕えが傷を負った手を片方の手で隠し、自身の胸の方へ引き寄せたことにより、現実に引き戻され、謝罪の言葉を口にしようとするが前に出た言葉は。 「……お前が、悪いんだからな」 「申し訳ございません。出過ぎた真似を」 「本当にな。今日はもういい。その傷が治るまで僕の前に出るな」 「……はい。その間は代わりの者が付くよう言っておきますので、どうかご容赦を」 深く、これでもかと深く頭を下げる側仕えの姿に、ずきずきと心臓が痛むのを、密かに鷲掴みするほど強く掴む。 明らかに自分が悪い。だが、今までそうしても許されてきた眞ノ助は、謝るということを知らない。というよりも、側仕えに謝るなんてもっての他だ。 ついさっき、初めてとも言える謝罪の言葉をしようとした口を噛み締めた。 なんという愚行をしようとしたのか。 しかし、今になって後悔する。これから朝食である。両親の前に出なければならないということは、自分の後ろにこの側仕えがいないといけない。それが、この側仕えではない者がいたら、父に何と言われるか。 身震いする。 となれば、こう命令しなければならない。 「……変更だ。朝食まではいろ。その後は、他の者にしてくれ」 そう告げると、側仕えは下がっていた眉を上げ、いくらからしい表情をし、「承知しました」と一礼をし、「少々お時間をください。処置してまいりますので」と無駄のない、しかし、素早い動作で、出る際に一礼をした後、部屋を出て行った。 その姿が見えなくなった後、眞ノ助はきちんと並べられたガラクタを蹴った。 やり場のない怒り。いいや、これは憤り立ったことによる興奮に近い。 それは、この足の間のが反応してしまうぐらいに。 眞ノ助は、ズボンの上からソレをなぞる。 それだけでも、背中がぞくぞくとしたものが駆け巡っていく。 息を吐き、ごくり、と喉を鳴らす。 ゆっくりとチャックを開け、取り出そうと手を伸ばした。

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