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つまらない 11

「お待たせして申し訳ありません」 心臓が飛び出るんじゃないかと思った。 そのぐらいに驚き、その勢いで再びやってきた側仕えを見たものだから、相手も驚愕した顔を向けていた。 「……ど、どうされました……?」 「っ、な、なんでもないっ!」 我に返った眞ノ助は、自身のやろうとした行いを恥、それを隠そうと怒りをぶつけた上に、ずかずかと廊下へと行こうとしたところを、「チャック開いております」と指摘された。 途端、ついさっきのことが思い出され、違う意味で顔を赤くする。 「お前がっ! きちんとやらないからだろっ!」 「それは申し訳ありません」 自身がやったことだが、責任転嫁をした。 そうだ。あの側仕えが間近に迫るからいけないのだ。何もかもあいつが悪い。自分のせいではない。 目の毒だ。 早歩きをしながら熱が治まってない部分を閉め、何もなかったかのように装った。 その部分が窮屈に思え、今すぐにでも慰めたいという思考に陥りそうになるのを堪えながら、食事へと向かった。 今日は、父だけが早く食べ、後から追いかけてきた側仕えが椅子を引き、眞ノ助が座ったのと同時に立ち上がり、早々に部屋を出て行ったのを、目で追っていた。 「お父様は、これから外に行かなくてはならないのです」 仕事の事なのだろうと思っていた時、心を読んだかのように母がそう答えた後、食事に取り掛かっていた。 「お母様もこれから用事で?」 「ええ。長くなると思いますので、夕暮れ時に帰る予定です」 淡々とそう告げる母に、またかと心の中で呟いた。 最初のうちは、何かめぼしい物があって買いに行っているのかと思っていた。しかし、そうじゃないと疑いすら出てきたのは、使用人達の噂を耳にしてしまった時。 何やら、他所に相手がいるらしく、会いに行っているということ。 あの夫婦に愛が全くないことは、ずっと前から分かっていたこと。だから、他所にそのような相手がいてもおかしくはない。 昨日のように、眞ノ助の分が運ばれたのと同時に一緒に食事をすることはなく、前掛けを付け、運ばれてきた食事に一口、二口と口に入れ、ゆっくりと咀嚼をしているうちに、母は食べ終え、そそくさと部屋を出ていった。 残るのは時折、一人分のスプーンが食器に当たる音。 そのうち食べることが失せた眞ノ助は、無言で前掛けを取りながら席を立ち、自室へと戻っていった。 背後から物言いたげな息遣いが聞こえたことに聞こえないフリをして。

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